5-2 再び德川家茂に下し給へる宸翰 孝明天皇(第百二十一代)

再び德川家茂に下し給へる宸翰(第二段)(元治元年正月二十七日 維新史料)

ちんまたおもへらく、われ所謂いわゆる砲艦ほうかんは、かれ所謂いわゆる砲艦ほうかんすれば、いま慢夷まんいきものむらず。國威こくい海外かいがいあらはすにらず。かえっ洋夷ようい輕侮けいぶくるがゆえに、しきりねがいるは、天下てんか全力ぜんりょくもっ攝海せっかい要衝ようしょうそなへ、かみ山陵さんりょうやすんたてまつり、しも生民せいみんたもち、また列藩れっぱんちからもっおのおのその要港ようこうそなへ、いでては數艘すうそう軍艦ぐんかんととのへ、無厭むえん醜夷しゅうい征討せいとうし、先皇せんこう膺懲ようちょうてんだいにせよ。

【字句謹解】◯砲艦 大砲と軍艦と ◯慢夷 自己の優秀を自慢して相手を輕視けいしする異國人いこくじん ◯膽を呑む きもをつぶすと同じで、おおいに驚かせること ◯國威 我がくに光輝こうき ◯海外 外國がいこくのこと ◯攝海 大阪わんの沿岸地方 ◯要衝 重要な場所、しょうは場所の意で、この部分異本いほんにはとなつてゐる。は港のことだから意味はこれでも通ずる ◯山陵を安じ奉り 御代々ごだいだい天皇御墓地ご ぼ ちのこと。皇室の御先祖ごせんぞ御靈みたまを御安心させ申す義で神々かみがみとして國家こっか鎭護ちんごあそばされるからこのおおせがあつた ◯列藩 各藩のこと ◯無厭の醜夷 頭をおさへられることを知らない傲慢ごうまん無禮ぶれい異國人いこくじん

【大意謹述】ちんなんじたいして又次のことを要望したく思つてゐる。朕のる所にれば、我がくに現在の大砲・軍艦などは、異國いこくのそれらと比較して殘念ざんねんながら數歩すうほおとり、その威力をせい一杯發揮はっきしても、われ輕侮けいぶする異國人いこくじんを驚かすことが出來で きぬ。その結果は我が光輝こうきを諸國に示し得ず、反對はんたい侮蔑ぶべつの度を益々ますます濃くするのは必然である。ゆえに朕はここにおりつて汝に願ひたい。それはほかでもない。天下國家こっかの全力を以て、京都に最も近い海岸の重要な場所を警備し、かみ御先祖ごせんぞ代々の御靈みたまやすんじたてまつり、しも國民こくみん一般の不安を除くこと、及び各藩が力をつくして自己の領內の重要な港に軍備をほどこし、ただちに軍艦數艘すうそうを用意して待機の姿を執り、頭をおさへられることを知らない傲慢ごうまん無禮ぶれい異國人いこくじん征伐せいばつして、惡人あくにん打懲うちこらす我がくに代々の方針を大規模におこなふことである。