104 花瓶 明治天皇(第百二十二代)

花瓶

うるはしきはなをゑがける小瓶こがめにはまつえだをやりてさしてむ。

【字句謹解】◯うるはしき 美しい義 ◯小瓶 小型の花いけ ◯松の枝 前句「うるはしき花をゑがける小瓶こがめ」とたいしておおせられたのであり、美事みごとな花をゑがいた小瓶こがめに花をけては共に引立たないから、老松ろうしょうの枝をといはれたのである ◯折りてさしてむ 折つてしたいものだ。これがしんの風流といふものだとの意。

【大意謹述】美しい花が描かれてある小型の花瓶には、綺麗な花をすよりもむしろ、松の枝などを折つてす方が似つかはしいものである。

【備考】本御製ほんぎょせいは明治三十八年の御作おんさくで、天皇の高い御審美眼ごしんびがんがうかがはれる。これもまた次に謹記きんきする諸歌と共にゆたかな詩的御情操ごじょうそうを十分に表現されたものである。

(一)このあさけ一村雨むらさめやふりつらむもみのわかつゆのたまれる

(二)かがやきし入日いりひの影も消えはてて富士の裾野すそのにいふだちのふる

(三)いけがきのかなめの上に咲きながらざしは見えぬ晝顏ひるがおの花

(四)大ぞらの星の林も動くかと思ふばかりにこがらしの吹く

(五)山松やままつのまに見ゆる枯れ枝やうつくしかりし紅葉もみじなるらむ

(六)なかなかにみやすくなしあまりにも作りすぎたる庭のけしきは

たいに、瀟洒しょうしゃ高雅こうが淸淡せいたんおもむきを愛好せられた御樣子ごようすが、以上の敍景歌じょけいかによつても、拜察はいさつ出來で きるやうに思ふ。