103 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて

さまざまにものおもひせしふたとせはあまたのとししここちする。

【字句謹解】◯さまざまに 多くのことを色々に考へること ◯もの思ひ 多くのことを心痛する ◯ふたとせ 明治三十七八年の二年間の義。日露にちろ交戰こうせん中の二年間である ◯あまたの年 多數たすうの年月 ◯經し 經過けいかした ◯ここちする 氣持きもちがする。

【大意謹述】多くの重大な事をいろいろに心痛してすごしたこの二年間は、今から考へるとじつに多くの年數ねんすう氣持きもちがするばかりである。

【備考】本御製ほんぎょせいは明治三十八年の御作おんさくで、日露にちろ戰爭せんそうに一段落がついた時に、過去二年にわた御苦心ごくしんの程を述懷じゅっかいなされたのである。交戰こうせん中は國民こくみんも決死の覺悟かくごであつたのは勿論もちろん天皇に於かせられては特に各方面の御苦勞ごくろうたまはなかつた。

(一)暑しともいはれざりけりたたかいにわにあけくれたつ人おもへば

(二)たかきびのはたにこほれるしもふみてあださぐるらむつはもののとも

(三)こらはみないくさのにはにいではてておきなやひとり山田やまだもるらむ

 くして、やつと國史こくし上最大の事件だつた日露戰にちろせんも日本の大勝だいしょうり、東洋の日本から一躍世界の日本として進出する時機がた時、さまざまの御心配を追憶され、本御製ほんぎょせいえいたもうた事を思ふと、感慨綿々めんめんとしてきない。