97 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷

おほづつのひびきはたえて四方よ ものうみよろこびのこえいつかきこえむ。

【字句謹解】◯おほづつの響 大砲たいほうの音響の義で、戰爭せんそうを意味する ◯たえて えて、すつかり消えてなくなること ◯四方の海 我がくに周圍しゅういの義 ◯いつかきこえむ 何時い つになつたら喜びのこえが聞えるであらうと願望と疑問とを含まれたのである。

【大意謹述】大砲たいほうの音響がすつかり消え去つて、我國わがくに周圍しゅうい國民こくみん歡喜かんきこえを聞くのは何時い つの事だらうか。ちんは常々心から平和をねがつてゐるが、世の中はなかなか意の如くならない。今囘こんかい露國ろこく交戰こうせんすることになつてしまつた。これはもとより朕が好んで行ふのでは決してないのである。

【備考】本御製ほんぎょせいは明治三十七年の御作おんさくで、天皇の平和御愛好の御精神ごせいしんを表示されてゐる。すでに明治時代に於ける宣戰せんせん詔勅ごしょうちょくはいせられる通り、天皇如何い かなる場合にも好んで兵を出されたことは一度もなかつた。東洋平和のため、朝鮮獨立どくりつ保障のためにむを得ず、支那し な露國ろこく交戰こうせんされたのである。したがつて宣戰せんせん以前にはあらゆる手段で平和に事を進めようと努められた。が、宣戰せんせん以後には一刻も早くこれを終局させ、國民こくみんに平和を享樂きょうらくさせたい御思召おぼしめし御念頭ごねんとうから寸時すんじも去らせたまふことがなかつた。本御製ほんぎょせいには左樣そ うした思召おぼしめしほがらかに示されてゐる。