89 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて

たみのためこころのやすむときぞなき九重ここのえうちにありても。

【字句謹解】◯民のため 國民こくみんにはたして天皇叡慮えいりょわたつてゐるかいなかを考へられて ◯心のやすむ時 心とは天皇御心みこころをいふ。天皇御心みこころからすべての御心痛が去られて國民こくみん全體ぜんたいに就いて何も考へなくなること ◯身は 御自身はの意 ◯九重の內 禁裏きんりの義、支那し な宮居きゅうきょを九てんたとへたことにもとづく。九てんとは中央を鈞天きんてん、東方を蒼天そうてん、東北を變天へんてん、北方を玄天げんてん、西北方を幽天ゆうてん、西方を顥天こうてん、西南方を朱天しゅてん、南方を炎天えんてん、東南方を陽天ようてんといふ。

〔注意〕本御製ほんぎょせいは明治三十六年の御作おんさくで、天皇が常に國民こくみんの安否を思はれ、御心みこころの休む時のないことをえいぜられたのである。

【大意謹述】ちんの身は人民から遙かに隔つた禁中きんちゅうにあり、そこで生活してゐる。左樣そ うした間にも、朕は常に國民こくみんの安否がになつて、休息する時などはないのである。