【謹譯】壺切ノ劔ハ、歷朝皇太子ニ傳ヘ、以テ朕カ躬ニ迨ヘリ。今之ヲ汝ニ傳フ。汝其レ之ヲ體セヨ。
【字句謹解】◯壺切ノ劔 東宮相傳の御劔をいふ〔註一〕參照 ◯朕カ躬 明治天皇の御身。但し明治天皇は慶應三年正月九日に御踐祚、明治元年八月二十七日に御卽位あり、立太子式を行はせられなかつた ◯汝 皇太子嘉仁親王の御事。
〔註一〕壺切ノ劔 名稱の由來は明らかではなく、現在の御劔はもと藤原長良の所有であり、醍醐天皇が皇太子にましました際に、宇多天皇から賜はつて以來、東宮相傳の例を開いたと傳へられてゐる。御冷泉天皇の康治二年(或は後三條天皇の治曆四年ともいふ)內裏燒亡の時にこれが失はれ、一時は他劔に代へられたが、後深草天皇の正嘉二年に勝光明院の寶藏から、それが出たので、再び東宮相傳として現在に至つたといはれる。
【大意謹述】壺切の劔は代々皇太子に傳へるもので、朕の代に及んでゐる。今囘これを汝嘉仁に傳へる。汝は朕がかくする意をよく了解して大切にしなければならない。