69 水產博覽會褒賞授與式ノ勅語 明治天皇(第百二十二代)

水產すいさん博覽會はくらんかい褒賞ほうしょう授與式じゅよしき勅語ちょくご(明治十六年五月二十一日)

【謹譯】ちんここ親臨しんりんシ、水產すいさん博覽會はくらんかい褒賞ほうしょうてんおこなフ。おもんみルニ吾國わがくに河海かかい物產ぶっさんミ、しかシテ蕃殖はんしょく漁獲ぎょかくじゅついま完備かんびナラス。本會ほんかいもうけアル所以ゆえんナリ。自今じこん益々ますます改良かいりょう進歩しんぽはかリ、もっ斯業しぎょう隆盛りゅうせいナランコトヲのぞム。

【字句謹解】◯褒賞授與式 褒美ほうびあたへる式 ◯茲ニ親臨シ 水產すいさん博覽會はくらんかいの式上に臨御りんぎょあらせられること ◯ 式の意 ◯蕃殖 人工で養殖繁榮はんえいさせたり、捕獲を制限してたね增加ぞうかしたりする意 ◯漁獲 うおを捕獲すること ◯未タ完備ナラス 現在ではその設備が完成してゐない ◯本會 勿論もちろん水產博覽會はくらんかい主體しゅたいとなる團體だんたいの意である ◯斯業 水產業。

【大意謹述】ちん親しくここに臨み、水產すいさん博覽會はくらんかいに就いて褒美ほうびあたへる式を行ふこととなつた。思へば我がくに河海かかいから出る產物さんぶつ豐富ほうふでありながら、現在では未だ魚類を繁殖させたり捕獲したるする方法が完全には備はつてゐない。本會ほんかいはこの現狀げんじょうを改良する目的で成立した。今後一そうの改良進歩を目ざして、益々ますます水產業が盛大にならんことを希望する。

【備考】さきには、明治天皇內國ないこく勸業かんぎょう博覽會はくらんかいたまわつた勅語ちょくご奉掲ほうけいしてあるが、ここに又、水產すいさん博覽會はくらんかいたいして、優渥ゆうあく御諚ごじょうたまわつたのをはいすると、いかに產業さんぎょう振興しんこう銳意えいいあらせられたかが、はつきりと分明わ かる。明治天皇は、明治初期から始終しじゅう、各地に巡幸じゅんこうあつて、產業を視察しさつせられ、土地の產物さんぶつ行在所あんざいしょに集めて、御覽ごらんになるばかりでなく、時には、奬勵しょうれいのため、これを買上げられた。かつ宮內くない大臣だいじんだつた渡邊わたなべ千秋ちあきはくは、天皇の產業御奬勵ごしょうれいについて、「陛下の大演習地だいえんしゅうち行幸ぎょうこうたまふのは、申す迄もなく、練武れんぶ御主旨ごしゅしであります。しかし練武れんぶの仕事をへさせたもうたのちは、必ず殖產しょくさんの事どもを聞召きこしめさるるが例でありました。しかも御下問ごかもん御討究ごとうきゅう緻密ちみつなる、地方の貧富・產物の一々に至る迄、深くきわめ遊ばせたまひ、御野立所おのたちどころに於ける御晝餐ごちゅうさん御後おんのちとても、決して無駄にすごさせたまはず。その地の產物をば御取寄おとりよせになつて、叡覽えいらんあらせたまふばかりでなく、それの產物の販路はんろや需要や供給や、さては現在の有樣ありさより將來しょうらいに及ぶ迄、深く御聞おききただしになる。かくて行在所あんざいしょらせたもうてのちは、又々奉獻ほうけんせし產物を御覽ごらんあり。近侍きんじの人達の奏聞そうもん御對照ごたいしょうあらせたまふのを、この上なきたのしみとあそばされました」と述べてゐる。現代日本の產業が、すばらしい發達はったつしたのは、特に明治天皇御思召おぼしめしによる所が最も多い。