57 國事多難ニ就テ近衞局ニ下シ給ヘル勅語 明治天皇(第百二十二代)

國事こくじ多難たなんつい近衞局このえきょくくだたまヘル勅語ちょくご(明治六年十月 法規分類大全)

【謹譯】一しんぎょうあまねカラスシテいまそのなかばいたラス、いまヤ一そう努力どりょくスルニあらスンハ、成功せいこうスヘカラス。いわん北地ほくち事情じじょうその國事こくじ多難たなん內外ないがい容易よういナラサル形勢けいせいさいシ、ちんふかこれうれフ。汝等なんじらちん體認たいにんシ、一そう勉勵べんれいそのしょくつくサンコトヲのぞム。

【字句謹解】◯一新之業 明治維新ぎょう ◯洽カラスシテ あまねく各方面にきわたる迄に至らない ◯北地 北海道方面のこと。それは、ロシヤが南下なんか政策に熱中して、日本の北邊ほくへんうかがひ、侵略の手を伸ばすことをやすめず、日本政府において深く憂へた ◯國事多難 政府が出來てから六年目で、文治ぶんじ派と武斷ぶだん派、外征がいせい派と內治ないじ派との對立たいりつがあり、あらそひがあつて、いろいろの難問題が續出ぞくしゅつしたこと ◯體認 心にたいして十分に認め、諒解りょうかいすること。

【大意謹述】明治維新大業たいぎょうは、まだ各方面にその精神せいしんきわたらせる事が出來で きないで、今やその中途にある。したがつて以前にもして努力しなければ、その大成を期するわけにはゆかぬ。まして北海ほっかい方面の事情は、外交上、樂觀らっかんを許さぬのだ。國事こくじ多難たなんで、內と外との有樣ありさについて憂慮すべきてんが極めて多い。なんじらはちんの胸中をよく察して、この間に善處ぜんしょするやう心がけ、一段とその職務に勉勵べんれいせよ。

【備考】本勅ほんちょくは、征韓論せいかんろん破裂に伴ふ大動搖だいようどうについて、おも文官ぶんかん方面の人々にたいし、戒諭かいゆせられたのである。明治天皇如何い か文治ぶんじ派と武斷ぶだん派との抗爭こうそうを憂へられ、內治ないじ派と外征がいせい派との葛藤に大御心おおみこころを痛められたかが、本勅ほんちょくの上に鮮明にはいせられる。じつ當時とうじの形勢は、山雨さんうまさきたらうとして、風樓かぜろう滿つるの有樣ありさだつた。