52 東京・横濱間鐵道開業式ニ親臨有司ニ賜ハレル勅語 明治天皇(第百二十二代)

東京とうきょう横濱間よこはまかん鐵道てつどう開業式かいぎょうしき親臨しんりん有司ゆうしたまハレル勅語ちょくご(明治五年九月十二日 太政官日誌)

【謹譯】今般こんぱんくに鐵道てつどう首線しゅせんこうおわルヲク。ちんみずか開行かいこうシ、便利べんりよろこフ。嗚呼あ あなんじかん盛業せいぎょうヲ百維新いしんはじめおこシ、鴻利こうり萬民ばんみん永享えいきょうのちめぐマントス。勵精れいせい勉力べんりょくじつ嘉尙かしょうスヘシ。ちんくに富盛ふせいシ、百かん萬民ばんみんメニこれしゅくス。ちんさらぎょう擴張かくちょうシ、せんヲシテ全國ぜんこく蔓布まんぷセシメンコトヲ庶幾しょきス。

【字句謹解】◯親臨 天皇が親しくその席上に臨まれること ◯首線 最も重要でつ最初に出來で きた線〔註一〕參照さんしょう ◯開行 實際じっさいにその樣子ようする ◯工竣ル 工事が完成する ◯此ノ盛業 我がくに最初の鐵道てつどう開業 ◯百事維新ノ初 社會しゃかいの一般が改革される當初とうしょ。この鐵道てつどうの起工は明治三年四月であつた ◯鴻利 大きな利益りえき ◯萬民永享ノ後 天下の人々が末長く受ける福利ふくり ◯其ノ勵精勉力 工事に關係かんけいした者が懸命となつてはげんだこと ◯嘉尙 よろこぶ ◯富盛 一こくとみさかんになる意 ◯此ノ業 鐵道てつどう事業 ◯此ノ線 鐵道てつどうの線路のこと ◯全國ニ蔓布 日本全國にどしどし敷きひろめる〔註二〕參照 ◯庶幾ス 切望する。

〔註一〕首線 アメリカの海軍提督ていとくペリイの雛型ひながた獻上けんじょうつて始めて蒸氣車じょうきしゃの存在を知つた我が國では、慶應けいおう三年に老中小笠原おがさわら壹岐守いきのかみとアメリカ公使館こうしかん書記のボルトメンとの間に東京横濱よこはま間の鐵道てつどう敷設ふせつ特許をやくしたまま世は明治となつた。明治政府は幕府の方針と關係かんけいなく、イギリス公使パアクスのげんれて、東京横濱よこはま間に敷く模範鐵道てつどう狹軌きょうきにすることに決定し、三百まんポンドの資金を九の利息でイギリスから借り、鐵道てつどうかんする事務はイギリスの東洋銀行に委託した。かくて我が國の首線しゅせんである東京(新橋)・横濱よこはま間十八マイルは、明治三年四月から起工し、五年六月に竣成しゅんせいしたのである。

 我が國最初の機關車きかんしゃは東京横濱よこはま間に使用し、當時とうじ第一ごうしょうせられた。それはイギリスのヴルカンしゃの製造で、四輪連結タンク機關車きかんしゃであつた。その長さは二十一フヰイト十インチ半、軌道上煙突の高さは十一フヰイト八インチ半、常用汽壓きあつは一平方インチにつき百四十ポンドであつた。又、最初の客車は明治五年に新橋しんばし及び神戸こうべで組立てた三等客車で、これもイギリス製であつた。車體しゃたいの長さは十五フヰイト、幅は六フヰイト六インチ、高さは六フヰイト九インチ、緩衝かんしょう器面きめん間の長さは十七フヰイト九インチ、蹈段ふみだん外側がいそく間の幅九フヰイト六インチ、燈頂とうちょうまでの高さは十フヰイト六インチであつた。

〔註二〕全國ニ蔓布 我が國鐵道てつどう發展はってんを物語る一資料として、次に明治大正時代に於ける營業えいぎょう線の延長をまい年間一年平均にして、全マイルすう及び國有こくゆう鐵道てつどうのマイルすうを示す。

每五箇年間一年平均  全マイル數  國有鐵道マイル數

明治五―九         三五    三十五

一〇―一四         八八     八八

一五―一九        二九三    二〇五

二〇―二四       一二七一    五一三

二五―二九       二一六七    五八四

三〇―三四       三五七八    八五六

三五―三九       四六〇三   一七一八

四〇ー四四       五二〇二   四七〇六

大正一―五       六九三一   五五九八

 六―一〇       八二八一   六二九六

一一―一五      一〇四〇三   七五五三

〔注意〕東京横濱よこはま間の鐵道てつどう開通に於いて、同日、このみことのり以外にみことのりを降された。

(一)東京横濱よこはま鐵道てつどう開業式ニ親臨しんりん工部省こうぶしょう職員鐵道てつどう局長以下ニ下シ給ヘル勅語ちょくご(明治五年九月十二日、太政官日誌)

(二)同シ時庶民しょみんニ下シ給ヘル勅語

(三)同シ時各國かっこく公使こうしニ下シ給ヘル勅語

(四)同シ時横濱よこはま在留ざいりゅう外商がいしょうニ下シ給ヘル勅語

【大意謹述】今囘こんかい、我がくにに於ける鐵道てつどうの第一線である東京横濱よこはま間の工事が完成したとの報告を受けた。ちんみずか實際じっさい樣子ようすに接し、非常に便利なことをしみじみよろこばしく感ずる。汝等なんじら一同は、各方面に改革をつづけてゐる當初とうしょあたり、この盛大な事業を起して、大きな利益りえき萬民ばんみんに末長くわかたうとするのだ。その事業にたいする熱心と骨折ほねおりとを深くよみしょうせなければならない。朕は、我が國將來しょうらいとみが、この鐵道てつどうによつてもたらされるべきことを信じ、官吏かんり一同及び國民こくみんのために完成を心から祝福しゅくふくする。朕はここに於いて、一そうこの事業をひろめ、鐵道てつどう線路を全國ぜんこく續々ぞくぞく延ばしてゆきたい希望を持つてゐる。