46 三條實美ノ功勞ヲ賞セラルルノ勅 明治天皇(第百二十二代)

三條さんじょう實美さねとみ功勞こうろうしょうセラルルノみことのり(明治二年九月二十六日 太政官日誌)

【謹譯】なんじ實美さねとみ皇道こうどう衰運すいうんさいシ、つと恢復かいふくぎょうス。つい天下てんかおもきケ、いでテハすなわ鎭將ちんしょういっテハすなわ輔相ほしょう中興ちゅうこうぎょうス。まことくに柱石ちゅうせきちん股肱ここうちんせつ偉勳いくんミス。すなわ賞賜しょうしシテろうむくユ。ああ將來しょうらい輔導ほどう益益ますますのぞことアリ。なんじ實美さねとみつとメヨ

【字句謹解】◯三條實美 明治維新に於ける公卿く げの先頭となつた功臣こうしんである。履歷りれき大體だいたいかんしては〔註一〕參照さんしょう ◯皇道 我が建國けんこく精神せいしんもとづく天皇御親政ごしんせいのこと ◯夙ニ 早くから ◯恢復ノ業ヲ期ス 王政おうせい復古ふっこ實現じつげんに努力する ◯躬天下ノ重ヲ係ケ 天下の人々の重く信賴しんらいする任に就く意 ◯鎭將 皇軍こうぐん反對はんたい者を討ちほろぼ大將たいしょう ◯輔相 天皇輔佐ほ さして國政こくせい總括そうかつする大臣のこと ◯中興ノ業 王政おうせい復古ふっこ大業たいぎょうすなわ明治維新を意味す ◯國ノ柱石 一こくの基本となる重臣じゅうしん ◯朕ノ股肱 天皇の手足同樣どうよう信賴しんらいしん ◯輔導 天皇たすけ導く ◯益益望ム事アリ 恐れ多くも天皇實美さねとみ將來しょうらい輔導ほどうを期待される意 ◯懋メヨ哉 つとめは『書經しょきょう』に見える語で、つとむと同意、努力せよとおおせられること。

〔註一〕三條實美 ぞう右大臣三じょう實萬さねつむ長子ちょうし文久ぶんきゅう二年、近衞このえ權中將ごんちゅうじょうに任ぜられ、十一月、姉小路あねこうじ公知きんとも東下とうげして勅旨ちょくしを幕府につたへ、攘夷じょうい實行じっこううながした。翌年、長州藩ちょうしゅうはん京師けいしからその勢力驅逐くちくされたとき、廷議ていぎ急變きゅうへん公武こうぶ主義となり、攘夷說じょういせつを主張した實美さねとみらの在朝ざいちょうを許さぬやうになると、にわかに東久世ひがしくぜ通禧みちとみらと一時長州に逃れた。後、罪を許されて、召還しょうかんの命に接し、議定ぎじょうの職に就いて以來いらい始終しじゅう、政府にあつて重きをした。戊辰ぼしんえきが起ると、關東かんとう大監察使だいかんさつしとなり、後、右大臣をて、太政だじょう大臣だいじんに進んだのである。明治十五年、大勳位だいくんいじょし、公爵こうしゃくを授けられ、十八年、太政大臣をやめたとき、內大臣ないだいじんに任ぜられた。十九年、維新いしん以來の功勞こうろうしょうせられて、終身しゅうしん年金ねんきん千圓せんえんたまはり、二十二年、內閣ないかく總理そうり大臣となり、二十四年、東京麻布あざぶ私邸していこうずると、國葬こくそうれいを以てぐうせられた。とし五十五。(『政治經濟篇』参照)

〔注意〕三じょう實美さねとみたもうた明治天皇詔勅しょうちょく列擧れっきょする。

(一)三じょう實美さねとみ修史しゅうし總裁そうさいにんスルノ勅語ちょくご(明治二年四月四日、三條實美公年譜)

(二)三條實美しょうスルノ勅語(明治二年九月二十六日、太政官日誌)

(三)太政だじょう大臣だいじん三條實美ニ政治ヲ委任スルノ勅語(明治五年五月二十二日、三條實美公年譜)

(四)太政大臣三條實美辭表じひょうこたフルノ勅語(明治六年十二月十九日、太政官日誌)

(五)三條實美親任しんにん勅語(明治六年十二月二十五日、太政官日誌)

(六)內大臣ないだいじん三條實美樞密院すうみついん會議かいぎれっセシムルノ勅語(明治二十一年五月十八日、三條實美公年譜)

(七)三條實美しょうじょスルノ勅語(明治二十四年二月十八日、三條實美公年譜)

(八)三條實美ちょうスルノ勅語(明治二十四年二月二十四日、三條實美公年譜)

なほ、實美さねとみの父の實萬さねつむに就いては特に

(九)三じょう實萬さねつむおくりなたまフノ勅語(明治二年十二月二十七日、太政官日誌)

たまはつた。

【大意謹述】なんじじょう實美さねとみは、我が建國けんこく精神せいしんもとづく天皇親政しんせいの道が衰へた時にあたり、早くからそれを昔通りに恢復かいふくするの希望を持つてゐた。かくして天下の人々から重任じゅうにんを受ける地位を占めて、ちょういでては皇軍こうぐんそう指揮者となり、ちょうつては天皇輔佐ほ さする太政だじょう大臣だいじんとなつて、つい維新いしん王政おうせい復古ふっこ事業を大成たいせいさせたのである。じつ國家こっかの基礎となる重臣、ちんの手足として信賴しんらい出來る。朕は心から深くなんじの立てた大功たいこう滿足まんぞくする。今囘こんかい、そのろうむくゆるためになんじしょうする。ああ、朕は將來しょうらい汝が朕をたすけ導く事を一そうこいねがふ。なんじ實美さねとみよ。今後共に努力せよ。