33-1 卽位の宣命 淸和天皇(第五十六代)

卽位そくい宣命せんみょう(天安二年十一月 三代實錄)

明神大八洲國所知天皇詔旨良萬止宣命、諸王諸臣百官人等、天下公民、衆聞⻝宣。

掛畏平安宮御宇倭根子天皇宣、此天日嗣高座、掛畏近江大津宮御宇天皇初賜定賜倍留法隨仕奉、仰賜授賜比之大命受賜、恐受賜、進不知退不知、恐天皇、衆聞⻝宣。

然皇、天下乎波治物止奈毛聞行。故是以大命坐宣、朕雖拙劣、親王、王等臣等相共奈比相扶奉事依氐之、此仰賜授賜閇留⻝國天下之政、平可奉仕止奈毛所念行。是以正直之心天皇朝廷衆助仕奉天皇、衆聞⻝宣。

【謹譯】

あきみかみ大八洲おおやしまぐにろしめす天皇すめら詔旨おおみことらまとりたまふおおみことを、親王み こたち、諸王おおきみたち、諸臣お みたち、百官もものつかさひとたち、あめした公民おおみたからもろもろきこしめさへとる。

けまくもかしこ平安へいあんみやあめしたろしめしし倭根子やまとねこ天皇すめらみことりたまひしく、天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらわざを、けまくもかしこ近江おうみ大津おおつみやあめしたろしめしし天皇すめらみことはじたまさだたまへるのりのまにまにつかまつれと、おおたまさずたまひし大命おおみことたまはり、かしこたまはりかしこまり、すすむもらに退くもらに、かしこすとりたまふ天皇すめらおおみことを、もろもろきこしめさへとる。

すめらとまして、あめしたをばたいらけくやすけくおさむるものりとなもきこしめす。ここ大命おおみことにませりたまはく、あれおじなおとれりといえども、親王み こたちをはじめて、おおきみたち、おみたちの相共あいともなひたてまつ相扶あいたすたてまつらむことりてし、おおたまさずたまへる⻝國おすくにあめしたまつりごとは、たいらけくやすけくつかまつたてまつるべくとなもおもほしめす。ここまさなおきのこころて、天皇すめら朝廷みかどをもろもろたすつかまつれとりたまふ天皇すめらおおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯明つ神 現在してゐるかみの意で、天皇を申したてまつる ◯らまと 確かに念を押す語 ◯平安の宮に天の下知ろしめしし倭根子天皇 京都にましまして天下を統治された天皇の意で、この場合は先帝せんてい文德もんとく天皇を申したてまつる ◯天日嗣高御座の業 萬世ばんせいけい天皇の位の意 ◯近江の大津の宮に天の下知ろしめしし天皇 天智てんぢ天皇御事おんこと ◯皇とまして 天皇の位にいて ◯朕は拙く劣れりと雖も ちんとは淸和せいわ天皇御自稱ごじしょうちん天子てんしとして日本を統治するには、あまりにとくが少く才が劣つてゐるけれどもの意 ◯仰せ賜ひ授け賜へる 前文の「天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらわざを」から「つかまつれ」までを受けたので、文德もんとく天皇が、淸和せいわ天皇おおせられて御授おさずけになつたとのことである ◯⻝國 御統治國ごとうちこく日本のこと ◯正く直きの心 公明こうめい正大せいだいな心。

【大意謹述】現御神あきつかみとしてこのくにを統治される天皇が確かにおおせられた大命おおみことを、親王しょしんのう諸王しょおう諸臣しょしん及び宮中に奉仕する官吏かんりその他一般國民こくみん拜承はいしょうするやうもうし上げる。

くちに掛けるのも恐れ多いが、京都の宮城み やにましまして天下を統治さるる文德もんとく天皇は、ちんに向ひかくおおせられた。「今、なんじさずける萬世ばんせいけい皇位こういを、恐れ多くも近江おうみ大津おおつの宮にゐまして天下を支配あられた天智てんぢ天皇創定そうてい實施じっしあそばされた國法こくほうのままに奉仕し、少しもあやまりがあつてはならない」と。かくおおせられてさずたもうた先帝せんてい大命おおみことに接し、ちんはこの上もなく恐れ入つて愼重しんちょうに受けたてまつつたが、あまりの重大な責任に進むことも退くことも出來ない程恐縮してゐる。かくおおせられる天皇御詞みことばを、一同の方々もきこしめされるやうもうし上げる。

 そこで皇位こういいて、天下を安らかに統治しようと思召おぼしめされた。このゆえ天皇御詞おことばをそのまま次にもうし上げる。ちん萬世ばんせいけい皇位こういぐには、とくが少く才が劣つてゐるが、親王を始め諸王しょおう諸臣しょしんなどが協力して朕をたすけられるならば、先帝から御敎訓ごきょうくんと共にさずけられた日本の政治は、平安になるであらうと考へる。ゆえに今まで通りの公明こうめい正大せいだいな心で、朕の朝廷を一同が助けるやうありたい。かくおおせられる天皇御詞おことばを、一同の方々もきこしめされるやうここに告げる。