28 小年魚を捕ふるを禁ずるの勅 嵯峨天皇(第五十二代)

小年魚しょうねんぎょとらふるをきんずるのみことのり(弘仁五年二月 類聚國史)

水陸之利、公私所倶。捕之不時、物無繁育。如今百姓、好捕小年魚、雖所獲多、於物無用。宜仰山城大和河內攝津近江等諸國、令加禁斷。唯四月以後、不在禁限。

【謹譯】水陸すいりくは、公私こうしともにするところなり。これとらふるにときなければ、もの繁育はんいくなし。如今このごろしょうこのんで小年魚しょうねんぎょとらふ、ところおおしといえども、ものいてようなし。よろしく山城やましろ大和やまと河內こうち攝津せっつ近江おうみとう諸國しょこくおおせて、禁斷きんだんくわへしめよ。ただがつ以後い ごは、きんずるかぎりにあらず。

【字句謹解】◯水陸の利 河海かわうみ山野さんやからる人間生活に必要なもの ◯公私の倶にする所なり 一個人の利益りえきを考へると共に、ひろ社會しゃかい一般の利をも眼中に入れなければならない ◯之を捕ふるに時なければ 自分の利のみを考へて、勝手な物を捕獲して他人のことを考慮しなければの意で、時なければとは時に制限なくとふこと ◯物に繁育なし 水陸の生產物せいさんぶつかずし、成長することがない ◯小年魚 幼時ようじうお ◯物に於いて用なし 實際じっさいあまり役に立たない ◯禁斷を加ふ 禁止する ◯禁ずる限 禁止の期間。

【大意謹述】河海かわうみ山野さんやからられる人間生活に必要なものは、各個人にとつて利となるのみでなく、同時に一般社會しゃかいの利ともなる。ゆえ各人かくじんが自分の利だけを考へて、いつでも勝手に捕獲すれば、それら水陸の利はすことも、成長することもない。近頃國民こくみんの多くは、生れてまだ間もない小魚しょうぎょを好んで捕へるとか聞いた。これはかず多く捕へても、實際じっさいあまり役に立たないと思ふ。だから早速、山城やましろ大和やまと河內こうち攝津せっつ近江おうみなどの諸國に命じ、これを禁止しなければならない。ただ每年まいねん四月以後は、繁殖期となるから、この禁を解く。