22 能登內親王に一品を贈り給ふの宣命 光仁天皇(第四十九代)

能登親王のとのひめみこに一ぽんおくたまふの宣命せんみょう(天應元年二月 續日本紀

天皇大命良麻止能登親王與止詔大命宣。

此月頃聞身勞須止聞⻝、伊都之可病止參入。朕心米麻佐牟止、今日明日牟止所念⻝都都賜間、安加良米佐如事、於與豆禮加毛、年多流麻之奴止聞⻝弖奈母、驚賜大坐。如此在牟止末世婆、心置弖毛相見弖末之、悔加毛加毛、云不知、然毛之加毛。朕乎波久乃忘得末之自美奈毛、悲之乃、大御泣哭川川大坐麻須。然治賜牟止所念止奈毛一品賜賜。子等乎婆二世王上賜治賜。勞久奈麻之曾。罷麻佐牟平幸、都都事無、宇志呂良世止與止天皇大命宣。

【謹譯】

天皇すめら大命おおみことらまと能登親王のとのひめみこげよとりたまふ大命おおみことる。

月頃つきごろほどつからすとこしめして、いつしかやまいみて參入ま いりき。こころなぐさめまさむと、今日きょうかあらむ明日あ すかあらむとおもほしめしつつたひたまふまに、あからめさすことのごとく、およづれかも、としたかくなりたるきてまかりましぬときこしめしてなも、おどろきたまひくやびたまひおほまします。かくあらむとらませば、こころきてもかたらひたまひあいてましものを、くやしかもかなしかも、はむすべらに、こほしくもしあるかも。あれみましこころざしをばしばらくのわすましじみなも、かなしびたまひしのびたまひ、おお泣哭ね なかしつつおおまします。さてもおさめたまはむとおもほしくらいとなも一ぽんたまわりたまふ。どもをば二世ふたつぎきみげたまひおさめたまふ。いとわしくなおもひましそ。まかりまさむみちたいらけくさきく、つつむことなく、うしろもかろやすとおらせとげよとりたまふ天皇すめら大命おおみことる。

【字句謹解】◯能登親王 光仁こうにん天皇皇女こうじょ ◯身勞らす 病をること ◯今日かあらむ明日かあらむ 參內さんだいするのは今日か明日かと ◯あからめさす 思ひもかけず ◯およづれ 虛言きょげんあるい逆言さかごとの意。俗に「うそではないか」とあるのにあたる ◯年も高くなりたる この時に天皇は七十三さいであられたのでこのおおせがあつた ◯罷りましぬ こうぜられた ◯知らませば 前以まえもって知つてゐたならば ◯心置きて 注意しての意 ◯こほし こいしの古語 ◯忘れ得ましじ 忘れる事が出來で きないであらう ◯一品 親王しんのうの位、その第一の階位 ◯子ども 親王ないしんのう御子み こで、五百井い お い女王じょおう五百枝い お えおうのこと ◯二世の王 天皇御子み こを一せい御孫おんまごを二世といふ。この御子み こは母方によつて光仁こうにん天皇御孫おんまごとして二世王せいおう特遇とくぐうあたへられる意 ◯勞しくな思ひそ あとにのこつた子供を不愍ふびんに考へる必要はない ◯罷りまさむ道 死後通ふ道のこと ◯つつむ事なく 無事にの意。

【大意謹述】天皇おおせを確かに能登親王のとのひめみこに告げるやうにとおおせられる御詞みことばを申し上げまゐらせる。

今月にり、天皇には親王ないしんのう病氣びょうきにあられるよしを御聞きなされ、「間もなく全快して參內さんだいし、ちんの心を慰め、安心させるであらう。その日は今日か、明日か」と叡慮えいりょあつて待つてられたものの、突然の薨去こうきょに夢ではないかと驚かれ、「年老いちんのこしてこうじたか」とて、驚かれると同時に、非常にくやんでをられる。あらかじめこの結果にふと知つたら、注意して面談をもし、おたがいに別れのことばも交したものを、何と心のこり多い事であらう。何といふ殘念ざんねんさであらう。言葉であらはし得ない程こいしくなつてた。朕は、なんじ氣持きもちを少しの間も忘れることが出來で きないと、悲しまれ追想せられて御涙おんなみだを流してをられる。天皇おおせられるには、ここに今前以まえもっじょする豫定よていとなつてゐた一ぽんの位を、改めておくることにした。なんじの子たちは朕の孫として待遇するから、決して心のこさぬやう、死後の道をたいらかに、前途の幸福こうふくを目ざして、無事ににかける事なく進むがよい。かくおおせられる天皇御詞みことばをここに告げたてまつる。