20-2 藤原永手を弔賻するの宣命 光仁天皇(第四十九代)

藤原永手ふじわらのながて弔賻ちょうふするの宣命せんみょう(第二段)(寶龜二年二月 續日本紀

美麻之大臣萬政總以、無怠緩事無曲傾事、王臣等乎母彼此別心無、普平奏、公民之上乎母廣厚慈而奏事此耳不在、天皇暫之間罷出而休息安母布事無、⻝國之政平善可在狀、天下公民之息安麻流倍伎、旦夕夜日不云思議奏仕奉者、款意太比之多能母志保之川川大坐坐間、忽朕朝離而罷止富麻之奴禮婆、言須部無爲須部不知、悔和備賜大坐坐、詔大命宣。

又事別詔、仕奉事廣、彌麻之大臣之家內子等乎母波布理不賜、失不賜、慈賜波牟、起賜波牟、溫賜波牟、人目賜波牟。美麻之大臣罷道宇之呂輕、心意太比、平罷止富良須倍之止詔大命宣。

【謹譯】みまし大臣おおおみよろずまつりごとふさねもちておこたたゆことなく、かたむくることなく、おおきみたちおみたちをも彼此かれこれわくこころなく、あまねたいらけくもうさひ、公民おおみたからうえをもひろあつめぐみてもうさひしことこれのみにあらず、天皇すめらみかどしばらくのまかでて休息や すまふことなく、⻝國おすくにまつりごと平善くあるべきさま、あめした公民おおみたからやすまるべきことを、旦夕あさよい夜日よるひるはずおもはかもうさひつかへまつれば、いそしみあきらけみおだひしみたのもしみおもほしつつおほましますに、たちまちにみかどさかりてまかりとほましぬれば、はむすべもなくせむすべもらに、くやしびたまひわびたまひおほましますと、りたまふ大命おおみことる。

またことけてりたまはく、つかへまつりしことひろあつみ、みまし大臣おおおみいえうちどもをもはふりたまはず、うしなひたまはず、めぐみたまはむ、おこしたまはむ、たずねたまはむ、かへりみたまはむ。みまし大臣おおおみまかもうしろかろこころもおだひにおもひて、たいらけくさきまかりとほらすべしとりたまふ大命おおみことる。

【字句謹解】◯萬の政總ねもちて 萬機ばんき總括そうかつする ◯曲げ傾くる 公平な天下の政治を私情のために曲げたり傾けたりする ◯彼此わく心なく 人々につて區別くべつすることがない ◯普く平らけく奏さひ すべてに公平な政治を執り行ふこと ◯廣く 範圍はんいひろい意 ◯厚く 程度の深いこと ◯款しみ こうがあると天皇が思はれること ◯明らけみ 忠義ちゅうぎに厚いと天皇が思はれること ◯おだひしみ おだやかだと天皇が思はれること ◯たのもしみ たよりに天皇が思はれること ◯朕が朝を離りて罷りとほましぬれば ちんの朝廷から永久に去つてしまつたので ◯わびたまひ さびしく感ぜられる ◯はふり はふらかしの意で、流離りゅうりさせること ◯溫ねたまはむ 家門かもんを衰へさせない意 ◯罷り道 死んでく道 ◯うしろ輕く あとに心のこりはなく。

〔注意〕本詔ほんしょうと同日に

(一)永手ながて太政大臣だじょうだいじんくらいおくるの宣命せんみょう(寶龜二年二月、續日本紀

がある。その全文を次にげる。

 大命おおみことにませりたまはく、みまし大臣おおおみつかまつしさまはいまのみならず、けまくもかしこ近江おうみ大津おおつみやあめしたろしめしし天皇すめら御世み よには、大臣おおおみ曾祖おおじふ藤原朝臣ふじわらのあそみ內大臣うちのおおおみあかきよこころをもちて天皇すめらみかどたすけまつりつかへまつりき。藤原ふじわらみやあめしたろしめしし天皇すめら御世み よには、祖父おおじ太政大臣おおきまつりごとのおおおみまたあかきよこころをもちて天皇すめらみかどたすけまつりつかへまつりき。いま大臣おおおみはをぢなきあれたすけまつりつかへまつりましつ、かしこおみたちのかさねてつかへまつりまさへることをなも、かたじけなみいそしみおもほします。かれここおやたちのつかへまつりしつぎてにもあり、また大臣おおおみつかへまつるさまもいとおしみいかしみ、太政大臣おおきまつりごとのおおおみくらいげたまひさずけたまふときに、かたいなみまをしてけたまはずなりにき、さてのちにもたまはむとおもほしましながら、太政大臣おおきまつりごとのおおおみくらいげたまひおさめたまはくとりたまふ大命おおみことる。

【大意謹述】なんじ永手ながて左大臣は、萬機ばんき總括そうかつし、一度も職責しょくせきを怠つたりなまけたりすることなく、絕對ぜったいに公平で何事も曲げ傾けることもなかつた。諸王に向つても一切彼此かれこれ區別くべつする心を避け、すべての方面に正しく政治を執り行ひ一般國民こくみんたいひろく深く仁政じんせいほどこした結果を奏上そうじょうするのが常であつた。それのみではない。汝は宮廷を少しのも去つて休息することなく、天下の政治が理想的に行はれること、國民全部が安堵あんどする手段に就いて、晝夜ちゅうや區別くべつなく考慮し、良策を奏上そうじょうした。ちんはこのゆえなんじこうを認め、忠義ちゅうぎの心を知り、おだやかな精神せいしんが分かり、萬事ばんじを委任したつもりでゐた。ところがにわかに朝廷の奉仕をめて薨去こうきょしたので、何といつてよいか、何をしてよいものかもわからず、ただ殘念ざんねんに思はれ、さびしく感ずる。かくおおせられる御詞みことばを申し上げる。

 更に特別に以下のおおせをつたたてまつる。なんじが朝廷に奉仕してゐた間の勳功くんこうが大きく深かつたために、なんじ左大臣一家者共ものどもちん流離りゅうりさせず、恩愛おんあいほどこして家を起させ、再び隆盛にさせるやう顧慮こりょするであらう。ゆえなんじ左大臣薨後こうごに何の心のこりがなく、心もおだやかに、先途せんと幸福こうふくを目ざしてやすんじられるやうにとおおせられる御詞みことばを告げまゐらせる。