9-3 卽位の宣命 聖武天皇(第四十五代)

卽位そくい宣命せんみょう(第三段)(神龜元年二月 續日本紀

辭別詔、遠皇祖御世始而、中今麻弖、天日嗣高御座而、此⻝國天下撫賜慈賜波久、時時狀狀從而治賜慈賜來業、隨神所念行。是以、宣天下慈賜治賜、(大赦天下、內外文武職事、及五位已上爲父後者、授勳一級、賜高年百歲已上榖一石五斗、九十已上一石、八十已上、幷惸獨不能自存者五斗。孝子順孫、義夫節婦咸表門閭、終身勿事。天下兵士、減今年調半、京畿悉免之。)又官官仕奉韓人部一人二人、其負而可仕奉姓名賜。又百官官人及京下僧尼、大御手物取賜治賜久止天皇御命、衆聞⻝宣。

【謹譯】ことけてりたまはく、遠皇祖とおすめろぎ御世み よはじめて、中今なかいまいたるまで、天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらして、⻝國おすくにあめしたでたまひめぐみたまはく、時時ときとき狀狀さまざましたがひておさめたまひめぐみたまひくるわざと、かんながらおもほしめす。ここて、あめしためぐみたまひおさめたまはく、(天下あめがした大赦たいしゃし、內外文武ないがいのぶんぶ職事しょくじおよび五已上いじょうちちあとたるものに、くんきゅうさずけ、高年こうねんさい已上いじょうたなつものこく、九十已上いじょうに一こく、八十已上いじょうならび惸獨けいどくみずかそんするあたはざるものに五たまふ。孝子こうし順孫じゅんそん義夫ぎ ふ節婦せっぷことごと門閭もんりょひょうし、おわるまでつかふことなからしむ。天下てんか兵士へいしは、今年ことし調みつぎなかばをげんじ、京畿けいきことごとこれゆるす。)また官官つかさつかさつかへまつる韓人部からひとどもにんにんに、そのひてつかへまつるべき姓名かばねなたまふ。また百官もものつかさ官人つかさびとおよ京下みさと僧尼ほうしあまに、大御手おおみてものらせたまひおさめたまはくとりたまふ天皇すめら御命おおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯辭別けて 特別に申し上げる意 ◯時時狀狀 その時々の世の樣子ようす ◯神ながら 天皇が御自身をいはれるので、宣命使せんみょうしの口からは「かんながら」といつたのである ◯惸獨 けいは兄弟のない者、どくたよる者を失つた人 ◯自ら存する能はざる者 自分で經濟けいざい的に獨立どくりつをなし得ない者の意 ◯身を終るまで事ふこと勿れ 一生涯變化へんかがあつてはならない ◯韓人部 三かん又はかんなどからの歸化人きかじん ◯百官の官人 諸司しょし屬僚ぞくりょうのこと ◯大御手へ物云々 天皇御手お てづからたまはるもの。

【大意謹述】特にこの際申し上げておきたいのは、今ちん卽位そくいした寶位ほういは、遠い祖先そせん皇位こういたもうて以來このかた、現在の盛大な御代み よに至るまで、萬世ばんせいけい皇位こうい繼承けいしょうされ、この御支配地たる日本國を平定し、國民こくみん愛撫あいぶされ、時々ときときの世の有樣ありさおうじて整へゆかる大業たいぎょうであると考へる。ゆえ今囘こんかい大典たいてん記念に、づ天下の全體ぜんたい恩惠おんけいれたい。

(この際にあたつて天下じゅうの罪人をゆるし、その上、朝廷の內外に奉仕する文武官ぶんぶかんの人々、及び五以上の者を父に持つた人々にくん一級を授け、百さい以上長壽ちょうじゅを保つた人にはこくこくを、九十歲以上には一石を、八十歲以上及び兄弟のない者、たよりになる人を失つた者など、すべ經濟けいざい上に獨立どくりつ出來で きない人に五斗をたまはることにした。親孝行の人、父祖ふ そ孝順こうじゅんな人、きみちゅうで家庭愛をゆたかに持つ夫、節操せっそうに堅い妻などは、すべ郷里きょうりの入口に記して、一生涯をへんじさせてはならない。天下中の兵士には今年こんねん調みつぎを半減し、京畿けいき地方はすべ全免ぜんめんする。)

又、諸官廳しょかんちょうに奉仕してゐる三かん及びかんからの歸化人きかじんの一にんにんには、その職務にちなんだせいたまはる。更に諸司しょし屬僚ぞくりょう及び京師けいしに居る男女のそうには、天皇御手み てづから物をたまふことにするとおおせられる天皇御詞みことばを、一同の人々もきこしめされるやうに申し上げる次第である。