9-1 卽位の宣命 聖武天皇(第四十五代)

卽位そくい宣命せんみょう(第一段)(神龜元年二月 續日本紀

現神大八洲所知倭根子天皇詔旨勅大命、諸王諸臣百官人等、天下公民衆聞⻝宣。

高天原神留坐皇親神魯美命、吾孫將知⻝國天下與佐麻爾麻爾、高天原事波自米而、四方⻝國天下彌高彌廣、天日嗣高御座坐而、大八島國所知倭根子天皇大命坐詔、此⻝國天下者、掛畏藤原宮天下所知、美麻斯天皇、美麻斯天下之業詔大命聞⻝、恐受賜、懼坐事、衆聞⻝宣。

【謹譯】現神あきつみかみ大八洲おおやしまぐにろしめす倭根子やまとねこ天皇すめらみこと詔旨おおみことらまとりたまふ大命おおみことを、諸王おおきみたち、諸臣お みたち、百官もものつかさひとたち、あめした公民おおみたから、もろもろきこしめさへとる。

高天原たかまのはら神留かんづまります皇親すめむつ神魯岐かんろぎ神魯美かんろみみことの、御孫み まらさむ⻝國おすくにあめしたよさしまつりしまにまに、高天原たかまのはらことはじめて、四方よ も⻝國おすくにあめしたまつりごと彌高いやたか彌廣いやひろに、天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらにまして、大八島おおやしまぐにろしめす倭根子やまとねこ天皇すめらみこと大命おおみことにませりたまはく、この⻝國おすくにあめしたは、かけまくもかしこ藤原ふじわらみやあめしたろしめしし、みましちち天皇すめらみことの、みましたまひしあめしたわざりたまふ大命おおみこときこしめし、かしこけたまはり、おそりますことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯倭根子天皇 ここでは聖武しょうむ天皇のことを申し上げる ◯皇親 天皇御親おんしたしみあそばすこと ◯神魯岐・神魯美の命 高皇產靈神たかみむすびのかみ神皇產靈神かみむすびのかみ御事おんことで、萬物ばんぶつを生じたもうた神々かみがみとして、又天照大御神あまてらすおおみかみ以前我國わがくに祖先神そせんじんとして信仰される ◯吾が御孫 自分の子孫、すなわ皇統こうとう正繼者せいけいしゃの意 ◯彌高に彌廣に 高いが上に高くひろいが上にひろく ◯倭根子天皇 元正げんしょう天皇を申したてまつる ◯汝の父と坐す天皇 みまし聖武しょうむ天皇天皇文武もんむ天皇御事おんこと ◯懼ります事 この上もなくつつしまれること。

【大意謹述】現人神あらひとがみとして、日本を統治あそばされる聖武しょうむ天皇大命おおみことを、確かに諸王しんのう諸臣しょしん・百かん及び國中くにじゅうすべてが拜承はいしょうされるやう申し上げる。

 高天原たかまのはらられる高皇產靈神たかみむすびのかみ神皇產靈神かみむすびのかみが、その子孫を統治者として、この日本の支配をまかせられて以來いらい高天原たかまのはらに始まつたところの天下の政治を、この上共に一そう廣大こうだいにされ、皇位こういにあられて、このくにを統治された元正げんしょう天皇が親しくちんに向はれ、「この支配する天下は、恐れ多くも藤原宮ふじわらのみやにあつて天下を統治された、なんじの父、文武もんむ天皇からなんじたまはつたので、なんじは今その位にくことを許されたのである」とおおせられたのを聞かれ、非常に緊張して拜承はいしょうし、つつしんでをられる。この事を一同の人々もきこしめされるやう申し上げる。