7-1 改元の宣命 元明天皇(第四十三代)

改元かいげん宣命せんみょう(第一段)(和銅元年正月 續日本紀

現神御宇倭根子天皇詔旨勅命親王諸王諸臣百官人等、天下公民衆聞宣。

高天原與利天降坐天皇御世始而、中今麻弖爾天皇御世御世、天日嗣高御座坐而、治賜慈賜來⻝國天下之業止奈母、隨神所念行左久止詔命、衆聞宣。

如是治賜慈賜來日嗣之業、今皇朕御世當而坐者、天地之心、聞看⻝國中東方武藏國、自然作成和銅出在奏而獻焉。此物者、天坐神地坐祇相于豆奈奉、福波倍奉事依而、顯多留羅之止奈母、神隨所念行。是以天地之神顯奉瑞寶依而、御世年號改賜換賜波久止詔命、衆聞宣。

【謹譯】現御神あきつみかみあめしたろしめす、倭根子やまとねこ天皇すめら詔旨おおみことらまとりたまふおおみことを、親王み こたち、諸王おおきみたち、諸臣お みたち、百官もものつかさひとたち、あめした公臣おおむたから、もろもろきこしめさへとる。

高天原たかまのはらより天降あまくだしし、天皇すめら御世み よはじめて、中今なかいまにいたるまでに、天皇すめら御世み よ御世み よ天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらして、おさめたまひめぐみたまひくる⻝國おすくにあめしたわざとなも、かむながらおもほしめさくとりたまふおおみことを、もろもろきこしめさへとる。

かくおさめたまひめぐみたまひくる天日嗣あまつひつぎわざと、いま皇朕すめらあ御世み よあたりてませば、天地あめつちこころいとわしみいかしみかたじけなかしこみゐますに、きこしめす⻝國おすくになかひんがしかた武藏むさしくにに、自然おのずからになれる和銅にぎあかがねでたりともうしてたてまつれり。ものは、あめにますかみつちにますかみの、あいうづなひまつり、さきわたてまつることによりて、うつしくでたるたからにあるらしとなも、かんながらおもほしめす。ここて、天地あめつちかみあらはしまつれる瑞寶しるしのたからによりて、御世み よ年號あらためたまひへたまはくとりたまふおおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯現御神 この世にましますかみの意で天皇を申したてまつことばであることは前述した ◯倭根子天皇 御當代ごとうだい天皇すなわ元明げんめい天皇御事おんことである ◯天降り坐しし 降臨こうりんされたこと ◯天日嗣 萬世ばんせいけい皇統こうとう ◯高御座 皇位こういの義 ◯⻝國天の下の業 天照大御神あまてらすおおみかみ神勅しんちょくむねほうじて天下を治めたまわざで、天皇御政治ごせいじのこと ◯神ながら 惟神かんながら神隨かんながらとも書く。かみ御心みこころままに行はるる素直な道 ◯皇朕が 天皇おんみずかのたま御詞おことば ◯天地の心 天地の大道たいどう、ここでは天照大御神あまてらすおおみかみ神勅しんちょくを指す ◯辱み 恐れ多く思ふ ◯聞しめす⻝國 御統治ごとうちされるくにうちの義 ◯自然になれる和銅 人工を加へないで銅がそのまま出ること ◯此の物 今囘こんかい發見はっけんされた和銅わどうのこと ◯天にます神地にます祇 天地の神々かみがみの意 ◯うづなひ 受納じゅのうされること。この御代み よの政治方針を天地の神々かみがみがめでたもうて御滿足ごまんぞくされる意である ◯福へ 前途の幸福こうふくいわはれる ◯顯しく出でたる 思ひがけなく出た ◯瑞寶 善政ぜんせいのしるしとしてあらはれたたからの義で、和銅わどうのことをいつたもの ◯御世の年號改め 慶雲けいうん和銅わどう改元かいげんされたこと。このことは後文こうぶんはいされる。

〔注意〕だいげんと決定されたのは明治に至つてからで、それ以前は年次ねんじにより、瑞兆ずいちょうにより、天變てんぺん地異ち いにより卽位そくいにより、それぞれ改元かいげんのことが多くあつた。年代から見て本詔ほんしょうと近い同じたぐい詔勅しょうちょくを次にげる。

(一)改元かいげんみことのり元正天皇靈龜元年九月、續日本紀)(二)改元の詔(元正天皇養老元年十一月、續日本紀)(三)改元の詔(孝謙天皇天平寶字元年八月、續日本紀)(四)改元みことのり(稱德天皇天平神護元年正月、續日本紀)(五)改元宣命せんみょう(稱德天皇神護景雲元年八月、續日本紀

【大意謹述】現人神あらひとがみとして天下を統治されてゐる當代とうだい天皇おおせを、親王しょしんのう諸王しょおう諸臣しょしん・百ぱん官吏かんり及び天下の國民こくみんたちが、つつしんでうけたまわられるやう以下の事を天皇に代つて申す。

 天孫てんそん高天原たかまのはら出發しゅっぱつして日本國に降臨こうりんされて以來いらい引續ひきつづいて、現在の盛大な世に至るまで、萬世ばんせいけい皇統けいとうを維持して日本國を治め、國民を愛撫あいぶせられる現在の天皇大命たいめいを、一同が拜承はいしょうされるやう申し上げる。

 今述べた如く、日本國を治め、國民を愛撫あいぶしてられた天皇御業みわざたてまつつて、今ちんの世に至つたのであるから、常々大御神おおみかみ神勅しんちょくとうとみ、恐れ多く考へて身をつつしんでゐた。折柄おりから、日本の中の東方にあた武藏國むさしのくにから、人工を加へない所の立派な銅を發見はっけんしたと奏上そうじょうした。この際に和銅わどう發見はっけんされたのは、必ず天地の諸神しょしんが、當代とうだいの政治方針に御滿足ごまんぞくあり、これ祝福しゅくふくされる意味で、めぐまれたたからであらうと天皇思召おぼしめされた。ゆえに、天地の諸神しょしん善政ぜんせいのしるしとしてめぐまれた和銅わどうの出現を永く記念するため、御世み よ年號ねんごうを改めへられることになつたのである。右の御詞おことばを、一同もきこしめすやうもうし上げる。