6-1 卽位の宣命 文武天皇(第四十二代)

卽位そくい宣命せんみょう(第一段)(元年八月 續日本紀

現御神大八島國所知、天皇大命良麻止詔大命、集侍皇子等王臣百官人等、天下公民諸聞⻝詔。

高天原事始而、遠天皇祖御世中今至麻氐爾天皇御子之阿禮坐彌繼繼大八島國將知次、天御子隨、天坐神之依隨、(聞看來)此天津日嗣高御座之業、現御神大八島國所知、倭根子天皇命授賜負賜、貴大命、受賜恐坐、此⻝國天下調賜平賜、天下公民惠賜撫賜牟止奈母、隨神所思行佐久止天皇大命、諸聞⻝詔。

【謹譯】現御神あきつみかみ大八島おおやしまぐにろしめす、天皇すめら大命おおみことらまとりたまふ大命おおみことを、うごなはれる皇子み こたち、おおきみたち、おみたち、百官もものつかさひとたち、あめした公民おおみたからもろもろきこしめさへとる。

高天原たかまのはらことはじめて、天皇とおすめろぎ御世みよみよ中今なかいまいたるまでに、天皇すめら御子み これまさむいやつぎつぎに、大八島おおやしまぐにらさむつぎてと、あまかみ御子み こながらも、あめにますかみのよさしまつりしまにまに、きこしめしくる天津あまつ日嗣ひつぎ高御座たかみくらわざと、現御神あきつみかみ大八島おおやしまぐにろしめす、倭根子やまとねこ天皇すめらみことのさづけたまひおわせたまふ、たっとたかひろあつ大命おおみことを、うけたまはりかしこみまして、⻝國おすくにあめした調ととのへたまひたいらげたまひ、あめした公民おおみたからめぐびたまひでたまはむとなも、かむながら、おもほしめさくとたま天皇すめら大命おおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯現御神 げんにこの世にましますかみの意で、天皇を申したてまつる ◯らまと 確かにいふために添へた言葉 ◯聞しめさへ きこしめさせの延言えんごん ◯詔る 宣命使せんみょうしとして選ばれた者がみずからいふことば ◯高天原に事はじめて 我が皇統こうとう高天原たかまのはらから由來ゆらいしてゐる意で、天照大御神あまてらすおおみかみはじまつての意味 ◯天皇祖の御世 遠い時代の各天皇の時代 ◯中今 現在、さかりの眞中まんなかの世のこと ◯生れまさむいやつぎつぎに 御生誕ごせいたんなされると繼々つぎつぎに、皇位こうい繼承けいしょうして日本を統治される意 ◯次と 一定した順序 ◯天つ神の御子ながらも 大御神おおみかみの直系の子孫として ◯天にます神 我が皇室の御先祖ごせんぞたる天照大御神あまてらすおおみかみを指したてまつる ◯よさしまつりしまにまに 神勅しんちょくを下されてのたまはれたままに ◯聞しめしくる此の天津日嗣高御座の業 原文には聞看來きこしめくる文字もんじなけれど、これを入れぬと次ぎの語へつづかない。よって挿入した。皇統こうとうけられた方々のみの御座ご ざなされる皇位こういの意。高御座たかみくら天皇の位を意味す ◯倭根子天皇 歷代れきだい天皇に通ずる御稱號ごしょうごうで、多くはその時に御統治あそばされる天皇を指したてまつるが、ここでは持統じとう天皇御事おんこと ◯さづけたまひ 皇位こういを授けたまふ ◯負せたまひ 御統治の責任を負はせられる。前の「さづけたまひ」と意は同じである ◯⻝國 統治するくにの意 ◯神ながら かみにましますままにとの意、天皇御自身のしょう

〔注意〕本詔ほんしょうは『日本紀しょくにほんぎまきの一にある最初の宣命せんみょうとして注目される。卽位そくい宣命せんみょうとしてはこのに、

(一)卽位そくい宣命せんみょう聖武天皇神龜元年二月、續日本紀)(二)卽位の宣命孝謙天皇天平勝寶元年七月、續日本紀)(三)卽位の宣命淳仁天皇天平寶字二年八月、續日本紀)(四)卽位そくい改元かいげん宣命光仁天皇寶龜元年十月、續日本紀)(五)卽位の宣命桓武天皇天應元年四月、續日本紀

を初めとしてかず多く拜誦はいしょうすることが出來で きる。

【大意謹述】現世にられるかみとして、我が日本全土を統治あそばされる天皇大命たいめいを、確かに皆につたへるやうとおおせられた御詞おことばを、今ここに集つた諸皇子おうじ、諸おう及び一般の官吏かんり、天下の士民しみんに告げる。

 我が日本は高天原たかまのはらにまします天照大御神あまてらすおおみかみ以來いらい、遠い御先祖ごせんぞ天皇御代み よて、現在の盛大な世に至るまで、天皇御子み こ御生おうまれになると次々に皇位こういいで、日本全土を統治されてた。それについて大御神おおみかみの直系の御子み このままの姿で、大御神おおみかみ神勅しんちょくたがふことなくこれを守り、皇統こうとうを維持して、現人神あらひとがみとして全日本を統治された持統じとう天皇が、ちん皇位こういを授けて、責任ある地位にかしめられた。先帝せんてい持統天皇)が朕に皇位つたへるとの、たっとい高大な慈仁じじんむねによる厚いおおせをうけたまわり、朕は非常につつしんで、統治する日本國を正しく支配し、皇威こういに背く者をたいらげ、天下の民を例外なく愛し育てようとおおいだされた。當代とうだい天皇大命たいめいを一同の方々もつつしきこしめされるやうもうし上げる。