66 朝鮮ニ下シ給ヘル大赦及租稅減免ノ詔書 明治天皇(第百二十二代)

朝鮮ちょうせんくだたまヘル大赦たいしゃおよび租稅そぜい減免げんめん詔書しょうしょ(明治四十三年八月二十九日 官報

【謹譯】ちんおもフニ、統治とうち大權たいけんリ、はじめ治化ち か朝鮮ちょうせんクハ、ちん蒼黎そうれい綏撫すいぶシ、赤子せきし體卹たいじゅつスルノ昭示しょうじスルヨリさきナルハナシ。すなわべつさだムルところリ、朝鮮ちょうせんケル舊刑きゅうけい所犯しょはん罪囚中ざいしゅうちゅう情狀じょうじょう憫諒びんりょうスヘキものたいシテ、とく大赦たいしゃおこなヒ、積年せきねん逋租ほ そおよび今年こんねん租稅そぜいこれ減免げんめんシ、もっちん軫念しんねんスルところ知悉ちしつセシム。

【字句謹解】◯統治 國民こくみんを一とうして治めゆく事 ◯大權 君主けん ◯治化 く治め敎化きょうかを加へる意 ◯蒼黎 國民の事 ◯綏撫 やすらかに生活出來るやう愛撫あいぶを加へる ◯赤子 國民についての譬喩ひ ゆ聖上せいじょうにおかせられて國民を赤子あかごの如く愛撫あいぶせらるるにより、かくふ ◯體卹 自己の身をかりに相手の境遇きょうぐうに置いて察しあはれむ事。すなわ聖上せいじょうにおかせられて、朝鮮臣民しんみん赤子せきしの如くあわれみ、十分、同情せらるる意 ◯昭示 あきらかに示す ◯舊刑所犯 舊刑法きゅうけいほうれた罪 ◯情狀 樣子ようすの意、事情に同じ ◯憫諒 あはれみ、察する ◯大赦 天下の罪人をことごとく許すこと ◯逋租 未だ納めぬ租稅そぜい ◯軫念 天子てんし御心みこころにかけられる事 ◯知悉 すつかり知らせる。

【大意謹述】おもふに、一こく君主として、統治の大權たいけんにより、始めて朝鮮に日本の皇政こうせいくにあたり、ちんが第一の急務とするところは、萬民ばんみん赤子せきしの如く愛撫あいぶし、彼等に深く心からの同情を注ぐむねあきらかにするにある。そこで別に定めた規程きていにより、朝鮮に於けるきゅう刑法にれた罪人及び犯人のうちで、最初から惡意あくいを以てしないで、その前後の樣子ようすに推察し、同情すべきてんあるものどもに向つては、大赦たいしゃを行ふ事とした。つ長い間、滯納たいのうに及んでゐる未納ぜい及び今年こんねん租稅そぜいは、事情によりこれをめんじ、あるいは減ずる事として、ちんが朝鮮臣民しんみんするところの深い同情を知らしめたいと思ふ。

【備考】日韓にっかん合邦がっぽう以來いらい、朝鮮統治について朝野ちょうやの間に、いろいろの見解、議論を發表はっぴょうしたものがあつた。が、要するに、明治天皇おおせの如く、「蒼黎そうれい綏撫すいぶシ、赤子せきし體卹たいじゅつスルノ」を明白に具體化ぐたいかするのが第一義である。陛下におかせられては、率先、以上の聖意せいいを示したまひ、內地人ないちじんと一同仁どうじんであらせらるる所の御精神ごせいしんあきらかにせられた。百の議論・千の名案があつても、するところ、統治の根本は、「蒼黎そうれい綏撫すいぶ」にあり、「赤子せきし體卹たいじゅつ」にある。朝鮮統治にあたるものが、明治天皇御精神ごせいしん只管ひたすら奉戴ほうたいして、時宜じ ぎに適するの政治をほどこすならば、そこに何らの憂惧ゆうぐもなく、不安もないと思ふ。