64 宮內官吏ヲ訓諭シ給ヘル勅語 明治天皇(第百二十二代)

宮內くない官吏かんり訓諭くんゆたまヘル勅語ちょくご(明治四十一年十二月十八日)

【謹譯】

ちん曩日のうじつみことのりくだシ、臣民しんみんむかところラシム。いま國運こくうん趨勢すうせいしたがヒ、宮廷きゅうてい各般かくはん費途ひ とまたこれともなフモノアリ。よろしリ、じつキ、淬勵さいれいこころつくシ、規畫きかくスルところアルヘシ。

皇室こうしつ財政ざいせい收支しゅうしもとヨリ限定げんていアリ、供需きょうじゅそのみちあやまラスシテ、收支しゅうし豫算よさん金額きんがく確定かくていシ、ばんムヲサルニあらサレハ、その範圍はんい超越ちゅうえつスルヲゆるサス。

宮廷きゅうてい臣僚しんりょうこのむねたいシ、協戮きょうりくシテ諸般しょはん規模き ぼ革新かくしんシ、皇室こうしつ財政ざいせい基礎き そ鞏固きょうこニシ、國家こっか戰後せんご經營けいえいあいチテ、施設しせつまったキヲセヨ。

【字句謹解】◯曩日 先般せんぱんといふ意 ◯詔ヲ下シ このみことのりは四十一年十月十三日に國民こくみんたまわつた勤儉きんけん貯蓄すすたまへる詔書しょうしょの事、これ戊申詔書ぼしんのしょうしょしょうする ◯嚮フ所 むかふ所に同じ ◯國運 國家こっかの運勢 ◯趨勢 なりきの事 ◯費途 金錢きんせんついや筋道 ◯規畫 くわだてもくろむ事 ◯淬勵 きたへ、みがく事 ◯限定 一定した限度 ◯供需 もとめそなへる事、入用にゅうようの品を供給する意 ◯豫算 あらかじめした計算 ◯超越 越え過ぎる ◯克ク くに同じ ◯協戮 力を合せる ◯鞏固 しつかり固めて丈夫にする ◯戰後ノ經營 日露にちろ戰役せんえき後の國家こっか經營けいえいの意味 ◯施設 こしらへ設けること。

〔注意〕明治天皇終始しゅうし、一かんして、勤儉きんけん奬勵しょうれいし、みずか實行じっこうはんを示された事は、一般の周知しゅうちする所で、『道德どうとく敎育きょういく篇』『思想社會しゃかい篇』『軍事外交篇』のうちでも、このてんれた記事が隨所ずいしょにある。本勅ほんちょくのほかに、

(一)明治十二年三月にはっせられた勤儉きんけんみことのり

(二)十五年一月の軍人勅諭ちょくゆ中、質素をむねとすべき事をおおせられた一節。

(三)四十一年十月の戊申詔書ぼしんのしょうしょ

等がある。また明治六年五月、宮城きゅうじょう炎上のわざわいはれたとき、「國費こくひ節約のため、新築を急ぐ必要がない」とおおせられた勅語ちょくごをも參照さんしょうすべきである。

【大意謹述】先般せんぱんちん詔書しょうしょはっして、戰後せんご經營けいえいむねとする重大時機にあたり、なんじ臣民しんみんの向ふ所をあきらかにした。今や國家こっかの進展につれて、宮廷各種の費用も膨脹ぼうちょうしてた。つてこの際、費用節約のために、はなやかな事を一切避け、質實しつじつしゅとし、十分に八方に心を配つて、按配あんばいよくするやう、計らねばならぬ。

 なんじらも知る如く、皇室の財政については、收入しゅうにゅう・支出共に一定の限度がある。したがつて必要な品を供給するについても、筋道あやまらぬやうにし、收支しゅうし上の豫算よさんをしつかりと定めた上、ばんむを得ない場合のほかは、限度を越える事を許さぬのである。

 宮內くない官吏かんりは、以上のむねを心得て、互ひに費用節約のため心を合せ、諸方面の仕組しくみを一新するやうにありたい。かうして皇室財政のもといをしつかり固め、戰後せんご經營けいえいあいつて、全體ぜんたいの施設がしんよろしきをるやう心がけよ。