56 皇室典範制定ノ詔勅 明治天皇(第百二十二代)

皇室こうしつ典範てんぱん制定せいてい詔勅しょうちょく(明治二十二年二月十一日)

【謹譯】天佑てんゆう享有きょうゆうシタル日本にっぽん帝國ていこく寶祚ほうそハ、萬世ばんせいけい歷代れきだい繼承けいしょうシ、もっちんいたル。おもフニ祖宗そそう肇國ちょうこくはじめ大憲たいけん一タヒさだマリ、あきらかナルコト日星にっせいごとシ。いまときあたリ、よろシク遺訓いくん明徵めいちょうニシ、皇家こうか成典せいてん制立せいりつシ、もっ丕基ひ き永遠えいえん鞏固きょうこニスヘシ。ここ樞密すうみつ顧問こもん諮詢しじゅん皇室こうしつ典範てんぱん裁定さいていシ、ちん後嗣こうしおよ子孫しそんヲシテ遵守じゅんしゅスルところアラシム。

【字句謹解】◯天佑ヲ享有シタル 皇祖こうそ皇宗こうそう御神靈ごしんれいの助けを受けつ保つ意で、我が日本皇統こうとうに就ておおせられたこと。〔註一〕參照 ◯寶祚 皇位こういのこと ◯歷代繼承 萬世ばんせいけいのもとに代々の天皇が引きつづいて卽位そくいされたまふ意 ◯祖宗肇國ノ初 御祖先ごそせん天照大御神あまてらすおおみかみ及び神武じんむ天皇我國わがくに御統治ごとうちあそばされた最初 ◯大憲一タヒ定マリ 國是こくぜの根本が一定する。これは天照大御神あまてらすおおみかみ神勅しんちょくを意味した ◯昭ナルコト日星ノ如シ 上天じょうてんにある日や星のやうに誰も疑はない程明らかである ◯遺訓ヲ明徵ニシ 後世にのこされた敎訓きょうくんをよく守りあきらかにする ◯成典ヲ制立シ 成典せいてん成文法せいぶんほうすなわ皇室こうしつ典範てんぱんを制定して發布はっぷすること ◯丕基 大いなる帝室ていしつもちの意 ◯樞密顧問 樞密すうみつ顧問官こもんかんのこと。天皇諮詢しじゅんこたへ、重要の國務こくむ審議しんぎする人々。〔註二〕參照 ◯諮詢 かみからしもに問ふことで、この場合は政府提出の議案を御前ごぜん會議かいぎに於いて決定すること ◯皇室典範 憲法と共に發布はっぷされ、皇室にかんする成文法せいぶんほうである。〔註三〕參照 ◯裁定 天皇御裁可ごさいかによつて決定する ◯後嗣 皇太子の意。

〔註一〕天佑ヲ享有 我が皇統こうとう萬世ばんせいけいであることは世界に誇りる長所であると共に「天佑てんゆう享有きょうゆう」することもまた世界に類例がない。この認識は日本人である以上、例外なく持たなければならない。

〔註二〕樞密顧問 樞密院すうみついん正副せいふく議長各一にん顧問官こもんかん十二人以上、及び書記官長・書記官で組織され、正副議長及び顧問官は、年齡四十歲以上で、文勳ぶんくん武功ぶこうすぐれた者から親任しんにんすることに規定され、左の詔勅しょうちょく宣布せんぷされた。

 ◯樞密院すうみついん設置の詔勅しょうちょく(明治二十一年四月二十八日)

 「ちん元勳げんくん及び鍊達れんたつの人をえらみ、國務こくむ諮詢しじゅんし、啓沃けいよくの力にるの必要を察し、樞密院すうみついんを設け、ちん至高しこう顧問こもんとなさんとす。」

かくて明治二十一年五月八日から六月十五日まで御前ごぜん會議かいぎによつて皇室こうしつ典範てんぱん審議しんぎし、翌二十三年の紀元節きげんせつぼくして大日本だいにっぽん帝國ていこく憲法けんぽうと共に發布はっぷされたのである。

〔註三〕皇室典範 皇室こうしつ典範てんぱんは構成上、(第一章)皇位繼承こういけいしょう、(第二章)踐祚せんそ卽位そくい、(第三章)成年せいねん立后りっこう立太子りったいし、(第四章)敬稱けいしょう、(第五章)攝政せっしょう、(第六章)太傅たいふ、(第七章)皇族、(第八章)世傳せでん御料ごりょう、(第九章)皇室經費けいひ、(第十章)皇族訴訟及び懲戒ちょうかい、(第十一章)皇族會議かいぎ、(第十二章)補則ほそくとなつてゐる。

〔注意〕本勅ほんちょくかんして、

(一)立憲りっけん制度調査ノ伊藤博文歐洲おうしゅうニ派遣シ給フ勅語ちょくご(明治十五年三月三日、法規分類大全)(二)皇室こうしつ典範てんぱん及ヒ憲法草案そうあん樞密院すうみついん諮詢しじゅんスルノ勅諭ちょくゆ(明治二十一年五月四日)以外に、次に謹述きんじゅつする(三)大日本帝國憲法發布はっぷ詔勅しょうちょく(明治二十二年二月十一日、官報)及びそれに附隨ふずいする詔勅しょうちょくがある。

【大意謹述】皇祖こうそ皇宗こうそう冥助めいじょを受け保つてゐる我が日本にっぽん帝國ていこく皇統こうとうは、萬世ばんせいけいわたり、代々よ よ天皇くらいがれて、今、ちんに及んでゐる。かえりみるに御祖先ごそせん我國わがくにの統治を初められた際、すで國是こくぜの根本が一定し、それは炳乎へいことして天に浮ぶ日星にっせいのやうに、誰も疑ふ者はない。現在、この後世にのこされた敎戒きょうかいを明らかにして、皇室にかんする成文律せいぶんりつを定め、大いなる基礎を永久に堅くしなければならない。ちんはこの意味から樞密すうみつ顧問こもん會議かいぎの決定をて、皇室こうしつ典範てんぱん天皇の名のもとに定め、ちん後繼者こうけいしゃ及びその子孫によく守らせるやう、ここに明言めいげんする。