54 立憲制度調査ノ爲メ伊藤博文ヲ歐洲ニ派遣シ給フ勅語 明治天皇(第百二十二代)

立憲りっけん制度せいど調査ちょうさ伊藤いとう博文ひろぶみ歐洲おうしゅう派遣はけんたま勅語ちょくご(明治十五年三月 法規分類大全)

【謹譯】ちん明治めいじ十四ねんがつ十二にち詔旨しょうしミ、立憲りっけん政體せいたい大成たいせいスルノ規模き ぼもとヨリ一ていスルところアリトいえどモ、その經營けいえい措畫そかくいたツテハ、各國かっこく政事せいじ斟酌しんしゃくシテもっ采擇さいたくそなうルノ要用ようようアルカためいまなんじヲシテ歐洲おうしゅう立憲りっけん各國かっこくいたリ、その政府せいふまた碩學せきがくあいせっシ、その組織そしきおよび實際じっさい情形じょうけいいたルマテ觀察かんさつシテ、餘蘊ようんナカラシメントスここなんじもっ特派とくは理事り じにんあたラシメ、なんじ萬里ばんりこうろうトセスシテ、この重任じゅうにん負擔ふたんシ、歸朝きちょうスルヲス。

【字句謹解】◯詔旨 おおせ出された御旨みむね、十四年十月の國會こっかい開設の勅諭ちょくゆ ◯立憲ノ政體 憲法を立て、立法・行政・司法を區別くべつして各獨立どくりつ機關きかんを設け、つ國民の參政權さんせいけんを認めて、の選出議員によって組織された議會ぎかいをして立法の事に參與さんよさせ、協賛きょうさんにより、元首げんしゅの政務を行ふ政體せいたい ◯規模 仕組しくみの義 ◯經營 規模を定め基礎を立てて、物事ををさめいとなむ ◯措畫 計畫けいかく實行じっこうしてゆく事 ◯斟酌 くみ取る ◯采擇 ちょうをゑらびて採用する ◯碩學 立派な學者がくしゃ ◯情形 有樣ありさ・事情など ◯餘蘊 あまつた所 ◯萬里ノ行 ヨオロツパが遠いので、萬里ばんりと形容されたのである。〔註一〕參照 ◯重任 重い役目・責任の事。

〔註一〕萬里ノ行 十五年二月二十五日、參議さんぎ參事院さんじいん議長伊藤いとう博文ひろぶみ歐洲おうしゅう立憲りっけん制度を調査するため、參事院さんじいん議長をし、山縣やまがた有朋ありともこれに代つた。かくして伊藤は、ぐに洋行ようこうを命ぜられ、三月十四日、日本を出發しゅっぱつした。本勅ほんちょくはその際、伊藤にたまわつたのである。伊藤は、このこう、特にドイツに於て勉强べんきょうし、憲法成典せいてんを調査すべきことを主眼とした。けだしドイツは國家主義の國で、參考さんこうとすべきてんが多いからである。伊藤の隨行ずいこう者のうちには西園寺さいおんじ公望きんもち伊東いとう巳代治み よ じ平田ひらた東助とうすけ河島かわしまじゅんらがゐた。かうして滯歐たいおう一年半、十六年八月四日、歸朝きちょう復命ふくめいした。

【大意謹述】ちんきに明治十四年十月十二日、國會こっかい開設に就て國民こくみんに告げたむね愈々いよいよ實行じっこうしようと考へ、なんじ博文ひろぶみに告げる。日本で立憲りっけん政體せいたいを立派におこなまとめてゆくにあたり、その仕組しくみについては、もとより一定してゐる。が、これを如何い かにをさめいとなみ、また處置しょち、運用してゆくかにかんし、世界各國の政治を研究し、その特點とくてんみ取り、參考さんこうとすると同時に、長所を採用しなければならぬ。の重大事を處理しょりすべく、なんじ博文ひろぶみをヨオロツパ立憲りっけん諸國しょこくに派遣する。なんじはかの地におもむいて、政府の要人や立派な憲法學者がくしゃひ、その學說がくせつ・組織の有樣ありさ實際じっさいの運用や事情などを十分に觀察かんさつし、あますなからん事をせよ。すなわち今、なんじ特派とくは理事とするから、萬里ばんりわたる旅行のろうを意としないで、この重大な任務を仕遂げ、無事、歸朝きちょうせんことを期待する。