50 議院憲法ヲ地方長官ニ頒示セラレシ時ノ勅語 明治天皇(第百二十二代)

議院ぎいん憲法けんぽう地方長官ちほうちょうかん頒示はんじセラレシとき勅語ちょくご(明治七年五月二日 太政官日誌)

【謹譯】ちん踐祚せんそはじめ神明しんめいちかヒシ旨意し いもとづキ、漸次ぜんじこれ擴充かくじゅうシ、全國ぜんこく人民じんみん代議人だいぎにん召集しょうしゅうシ、公議こうぎ輿論よろんもっ律法りっぽうさだメ、上下じょうげ協和きょうわ民情みんじょう暢達ちょうたつみちひらキ、全國民ぜんこくみんヲシテおのおのぎょうやすんシ、もっ國家こっかおもき擔任たんにんスヘキノ義務ぎ むアルヲラシメンこと期望きぼうス。ゆえ地方ちほう長官ちょうかん召集しょうしゅうシ、人民じんみんかわっ協同きょうどう公議こうぎセシム。すなわ議院ぎいん憲法けんぽう頒示はんじス。各員かくいんこれ遵守じゅんしゅセヨ。

【字句謹解】◯踐祚ノ初 卽位そくいはじめのこと ◯神明ニ誓ヒシ旨意 天神てんじん地祇ち ぎに誓つた內容。〔註一〕參照 ◯擴充 『孟子もうし』に見える有名な語で、おしひろげて十分に滿みたす意 ◯代議人 國民に代つてその意志を代表する者、後代の代議士にあたるが、本勅ほんちょくはいする如く地方長官がこの役に就いたので選擧せんきょつたのではない ◯輿論 國民の總意そうい ◯民情暢達ノ路 國民の氣持きもちが一國全部にのび達する方法。〔註二〕參照 ◯國家ノ重 國家こっか發展はってん上の一部分の責任 ◯擔任 責任を持つ。

〔註一〕神明ニ誓ヒシ旨意 御卽位ごそくい當初とうしょ神明しんめいに誓はれた內容とは、明治元年三月十四日の有名な『五箇條かじょう御誓文ごせいもん』中「ひろ會議かいぎおこ萬機ばんき公論こうろんに決すべし」を指したもうたので、代議制度の完成されたものとしての議會ぎかい開設の下準備として本勅ほんちょくくだつたのであつた。

〔註二〕民情ノ暢達 征韓せいかんの主張に敗れた人々のうちことこころざしと違つた江藤えとう新平しんぺいは七年一月ちゅうふくし、西郷さいごう隆盛たかもり薩南さつなんかえり、板垣いたがき退助たいすけは自由民權みんけんの旗のもとに七年一月『民選みんせん議院設立の建白けんぱく』をして愛國あいこく公黨こうとう及びその後身こうしんたる立志社りっししゃを組織した。右、建白けんぱくの一節には「臣等しんらして方今ほうこん政權せいけんする所を察するに、かみ帝室ていしつらず、しも、人民にらず。しかしてひと有司ゆうしせり、有司ゆうしかみ帝室ていしつとうとぶとはざるにあらず、しかして帝室ていしつようや尊榮そんえいうしなふ。しも、人民をたもつとはざるにあらず。しかして政令せいれいたんにして朝令暮改ちょうれいぼかい云々うんぬんとあつた。ちょうに於いては長閥ちょうばつの代表者木戸き ど孝允こういん薩閥さつばつ大久保おおくぼ利通としみちとが對立たいりつした結果、木戸は板垣より一歩以前に憲法制定・國會こっかい開設を建議けんぎし、大久保は主として民心みんしんを外部に發散はっさんさせるために臺灣たいわん征伐せいばつ計畫けいかくした。はばこの議院憲法は、御誓文ごせいもんを中心に板垣らの建白けんぱくと木戸の立憲りっけん思想とから生じたので、結果に於いては木戸孝允の議長のもとに地方官會議かいぎとして終つたが、民選議院設立の前驅ぜんくとしての價値か ちはあつた。ほ十一年四月、第二かい地方官會議かいぎがあり、十三年二月に第三かいが開かれ、爾來じらい每年まいねんかい必ず開かれる事となり、今日こんにちに及んでゐる。

〔注意〕本勅ほんちょく關係かんけいある諸勅語ちょくごの如くである。

(一)地方官會議かいぎヲ開クノ勅語ちょくご(明治八年六月二十日、岩倉公實記)(二)地方官會議かいぎ議院ニ下シ給ヘル勅語(明治八年六月二十日)(三)地方官會議かいぎ閉會式へいかいしき勅語(明治八年七月十七日、岩倉公實記)

岩倉公いわくらこう實記じっき』には、本勅ほんちょくと同文のみことのりが明治八年六月十四日に再びくだされたよしを記してある。

【大意謹述】ちん卽位そくい當初とうしょ天神てんじん地祇ち ぎに誓つた內容を基礎として、次第にそれを押しひろめ、全國民こくみんの意志を代表する人物を各地から召し集め、國民の總意そういを中心として、諸種しょしゅ立法りっぽうを制定し、上下が一致協力して、全國民のかんがえかみに達するの方法を開きたいとねて思考した。以上の方法により國民が安堵あんどして各目めいめいの職業にしたがひ、國家こっか發展はってん上について一部分の責任を持つ義務のあることを知らしめん事を希望する。

 如上にょじょうの目的のもとに、それに達する第一歩として今囘こんかい、地方長官を召集しょうしゅうし、國民の利害を代表させて、共に國政こくせいを論ぜしめることとし、それにかんした規定を公布こうふする。各大臣及び地方長官は、この趣旨を十分に理解して守つてほしい。