28 正稅の未納を免ずるの勅 平城天皇(第五十一代)

正稅せいぜい未納みのうめんずるのみことのり(大同三年五月 日本後紀

如聞、大同元年洪水爲害、餘弊未復。去年以來疫病流行、横斃者衆。顧彼困厄、深懷矜愍、思施恩德以慰黎烝。宜大同元年被水損七分已上戸、所擧正稅未納、悉從免除。

【謹譯】くならく、大同だいどう元年がんねん洪水こうずいがいをなして、餘弊よへいいまふくせず。去年きょねん以來いらい疫病えきびょう流行りゅうこうし、横斃者おうへいしゃおおしと。困厄こんやくかえりみてふか矜愍きょうびんいだき、恩德おんとくほどこしてもっ黎烝れいじょうなぐさめんことをおもふ。よろしく大同だいどう元年がんねん水損すいそんこうむること七已上いじょうぐるところ正稅せいぜいいまおさめざるものはことごと免除めんじょしたがふべし。

【字句謹解】◯餘弊未だ復せず 洪水のためにこうむつた損害が現在でも未だ恢復かいふくしてゐない ◯疫病流行し 傳染病でんせんびょうが流行する ◯横斃者 十分に手當てあてを受けることなくやまいのために死ぬ者 ◯困厄 天災てんさいといふ程の意で、洪水と疫病えきびょう流行とを指されたものである ◯矜愍を懷く 同情心を持つ ◯黎烝 國民一般のこと ◯七分已上 水害のために收穫高しゅうかくだかが三十パアセント以下になつた者 ◯免除に從ふ 正稅せいぜい全免ぜんめんにすること。正稅せいぜいとは田租でんその意。

【大意謹述】噂によれば、去る大同だいどう元年に起つた大洪水の損害がげんにまだつぐなはれず、その上去年以來いらい流行してゐる傳染病でんせんびょうのために、十分な手當てあても受けないで死する者がすこぶる多いとのことである。ちん天災てんさいる人々の艱難かんなんに深く同情し、この際朝廷の仁政じんせいを徹底させて、國民一般の氣持きもちなぐさめたいと考慮した。ゆえ今囘こんかい大同だいどう元年の水害のために收穫しゅうかくの七分以上を減じたうちに限り、定められた田租でんそを未だ納めない者は全免ぜんめんすることを命ずる。