26 隣保を作り非違を檢察するの勅 桓武天皇(第五十代)

隣保りんぽつく非違ひ い檢察けんさつするのみことのり(延曆三年十月 續日本紀

如聞、比來京都中盜賊稍多。掠物街路、放火人家。良由職司不能肅淸、令彼凶徒生茲賊害。自今以後、宜作隣保檢察非違一如令條。其遊⻝博戲之徒不論蔭贖決杖一百、放火劫略之類、不必拘法、懲以殺罰、勤加捉搦、遏絕姧宄。

【謹譯】くならく、比來このごろ京都中きょうとちゅう盜賊とうぞくようやおおし。もの街路がいろかすめ、人家じんかはなつ。まこと職司しょくし肅淸しゅくせいするあたはざるにり、凶徒きょうとをして賊害ぞくがいしょうぜしむ。自今じこん以後い ごよろしく隣保りんぽつくつて非違ひ い檢察けんさつせしむること、一に令條れいじょうごとくすべし。遊⻝ゆうしょく博戲はくぎ蔭贖いんしょくろんぜず、決杖けつじょう一百たびせん。放火ほうか劫略ごうりゃくるいかならずしもほうかかはらずしてこらすに殺罰さつばつもってし、つとめて捉搦さくじゃくくわへ、姧宄かんき遏絕あつぜつせよ。

【字句謹解】◯比來 近來きんらいと同じ ◯肅淸 賊を平らげきよめる事 ◯賊害 人をそこなふ意 ◯隣保 隣近所の家及びその人々の團結だんけつ ◯非違 法にそむくこと ◯檢察 調べ視察しさつを加へる ◯令條 法律中のある箇條かじょう ◯遊⻝ 遊民ゆうみんに同じ ◯博戲 博奕ばくちなど ◯蔭贖 父祖ふ そこう又はざいを入れて罪をあがなふ事 ◯劫略 人をおびやかして物を奪ひ取る ◯捉搦 からめる ◯姧宄 『書經しょきょう舜典しゅんてんにある語、かん內邪ないじゃ外邪がいじゃ ◯遏絕 とどめつ。

【大意謹述】聞くところによると、近來きんらい、京都のうちには、盜賊とうぞくが少からず徘徊はいかいしてゐる樣子ようすである。彼等は町で物をかすめ取り、火を人家じんかに放つて、市民に不安な思ひをいだかせてゐるが、つまり當局とうきょくが賊をたいらきよめることが出來ぬめ、かかる害を生ぜしめるのだ。今後は、よろしく隣近所となりきんじょのものの團結だんけつを作つて法にそむくものどもを取調べ、これを發見はっけんしたら、法律の命ずる所にしたがつて處斷しょだんするがい。彼等のうち遊民ゆうみんとなり、博奕ばくちふけるものどもは、つえ一百を加へる。放火犯とか、强盜ごうとうたぐいは、一々、法律にかかわらないでぐにこれを殺してよろしい。ほ成るべくこれからめ取り、左樣そ うした惡者わるもの跋扈ばっこみなもとつことが何よりも肝要かんようである。