25-2 縣犬養姉女等を配流するの宣命 稱德天皇(第四十八代)

縣犬養姉女あがたのいぬかいのあねめ配流はいるするの宣命せんみょう(第二段)(神護景雲三年五月 續日本紀

廬舍那如來最勝王經觀世音菩薩護法善神梵王帝釋四大天王不可思義威神力、掛畏開闢以來御宇天皇御靈、天地多知乃護助奉都流、其等厭魅事皆悉發覺。是以檢法皆當死刑罪。由此末爾末爾岐良倍久。然止毛慈賜、一等降其等根可婆禰替、遠流罪治賜布止天皇大命衆聞⻝宣。

【謹譯】しかれども廬舍那る さ な如來にょらい最勝王經さいそうおうきょう觀世音かんぜおん菩薩ぼさつ護法ごほう善神ぜんじん梵王ぼんおう帝釋たいさく・四大天王だいてんのう不可思義ふ か し ぎ威神いじんちからけまくもかしこ天地あめつち開闢はじめより已來このかたあめしたろしめしし天皇すめら御靈みたま天地あめつちかみたちのまもたすけまつるちからりて、其等それらきたなはかりてなせるまぢわざみなことごと發覺あらわれぬ。ここをもっのりかんがふるにみな死刑ころすつみあたれり。これにりてことわりのりのまにまにきらひたまふべくあり。しかれどもめぐみたまふとして、一等ひとしなかろめて其等それら根姓ねかばねへてとおながつみおさめたまふとりたまふ天皇すめら大命おおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯廬舍那如來 大日だいにち如來にょらいのことで、この場合は奈良東大寺とうだいじ大佛だいぶつを指した ◯最勝王經 金光こんこう明經みょうきょう新譯しんやくのことで、そうぞうやく、十かん三十一ぽんある ◯觀世音菩薩 人間に大慈悲だいじひるるといふ菩薩ぼさつ、千じゅ觀音かんのん如意輪にょいりん觀音かんのん馬頭ばとう觀音かんのんなどのしょうがある ◯護法善神 佛法ぶっぽう守護のため使役しえきせられる鬼神きじんしょう ◯梵王 梵天だいぼんてんおうのこと、梵天だいぼんてんおうとは梵天だいぼんてんしゅで、淫欲いんよくを離れ、淸淨しょうじょう潔白なほとけの意 ◯帝釋 喜見城けんじょうり四天王てんのう及び三十二てんりょうして、佛法ぶっぽう擁護ようご阿修羅あしゅらせいするかみしょう帝釋たいしゃく天王てんおうと同じ ◯四大天王 帝釋たいしゃく天王てんおう外臣がいしんで、須彌山しゅみせん半腹はんぷくにある四天王てんのうしゅである。佛敎ぶっきょうを守護する方々で東方の持國じこく天王てんおう、西方の廣目こうもく天王てんおう、南方の增長ぞうちょう天王てんおう、北方の多聞たもん天王てんおう總稱そうしょう ◯不可思義威神の力 人間の及びもつかない神佛しんぶつの威力をいふ ◯法に檢ふるに 國法こくほうてらはせるのに ◯法のまにまにきらひたまふべくあり 國法こくほうの命ずるままに處分しょぶんするのが本當ほんとうである ◯一等降めて とうを減じて。

【大意謹述】しかしながらあらゆる手段で佛法ぶっぽうを守護さるる廬舍那るしゃな如來にょらい最勝王經さいしょうおうきょう觀世音かんぜおん菩薩ぼさつ護法ごほう善神ぜんじん梵王ぼんおう帝釋たいしゃく・四大天王だいてんのうなどの人間の想像もつかない程の威力、及び恐れ多くもこの天地がひらけ始めて以來いらい、天下を御統治ごとうちあそばされた御代み よみよ天皇がた御靈みたまや、天神てんじん地祇ち ぎの我が國家と朝廷とをまもり助ける威力とにり、その人々が惡心あくしんを持つておこなつたのろひが全部露見ろけんしてしまつた。露見ろけんした以上は當然とうぜん國法こくほうつて裁かなければならない。國法こくほうてらせば全部が死刑に相當そうとうするのである。ゆえ本來ほんらいならば、全部を國法こくほうの命ずるままに死刑にしょする筈ではあるが、今囘こんかいは特別の御仁慈ごじんじつて、とうを減じ、その人々のせいへ、遠方に流す事にした。以上おおせられる天皇大命おおみこと諸神しょじん御了承ごりょうしょうあられるやう願ひ上げたてまつる。