25-1 縣犬養姉女を配流するの宣命 稱德天皇(第四十八代)

縣犬養姉女あがたのいぬかいのあねめ配流はいるするの宣命せんみょう(第一段)(神護景雲三年五月 續日本紀

現神大八洲國所知倭根子、掛畏天皇大命親王王臣百官人等、天下公民衆聞食、丈部姉女乎波、冠位擧給根可婆禰改給。然逆心抱藏、己爲首忍坂女王石田女王等、掛畏先朝依過棄給弖之廚眞人廚女許竊往作、岐多奈惡奴止母止相結家良久、傾奉朝庭亂國家、岐良比給弖之冰上鹽燒兒、志計志麻呂天日嗣牟止、掛畏天皇大御髮盜給波利弖、岐多奈佐保川髑髏、大宮內持參入來、厭魅爲流己止三度世利

【謹譯】現御神あきつみかみ大八洲おおやしまぐにろしめす倭根子やまとねこけまくもかしこ天皇すめら大命おおみことを、親王み こたち、おおきみたち、おみたち、百官もものつかさひとたち、あめした公民おおみたからもろもろ、きこさへとりたまはく、丈部はせつかべ姉女あねめをばうちやっこなして、冠位かがふりくらいたまひ、根姓ねかばねあらたたまおさたまひき。しかるものをかへりてきたなこころ抱藏い だきて、おのれひとこのかみとなりて、忍坂女王おさかのおおきみ石田女王いしだのおおきみたちをひきゐて、けまくもかしこおやみかどの、あやまちによりててたまひしくりや眞人まびと廚女くりやめもとひそかにきつつ、きたなくしきやっこどもとあいむすびてはかりけらく、朝庭みかどかたぶたてまつり、あめしたみだりて、きらひたまひてし冰上ひかみ鹽燒しおやき志計し け志麻呂し ま ろあま日嗣ひつぎとせむとはかりて、けまくもかしこ天皇すめら大御髮おおみかみぬすたまはりて、きたなき佐保川さほがわ髑髏ひとがしられて大宮おおみやうちまいて、厭魅まじもののせることたびせり。

【字句謹解】◯天の下の公民 國中くにじゅうの自由民全部 ◯內つ奴 禁中きんちゅう召使めしつかしん ◯根姓 は人をとうとんでいふしょうせいといふに同じ ◯ 首謀人しゅぼうにん ◯忍坂女王 如何い かなる系譜けいふの人か不詳ふしょう ◯石田女王 同前 ◯廚の眞人廚女 聖武しょうむ天皇皇女こうじょ不破ふ わ親王ないしんのうのことで、鹽燒王しおやきおうきさきとなられて、志計し け志麻呂し ま ろを生んだ。鹽燒王しおやきおう謀反むほんの時に親王ないしんのうの名をけずられたのであらうといはれてゐる ◯盜み給はりて ぬすみ取りての敬語 ◯厭魅 神靈しんれいいのつて禍災かさいの及ぶやうにすること。

【大意謹述】人間として完成された神格しんかくを有せられ、日本にっぽん全土を統治あそばされる當代とうだい天皇、口にするのも恐れ多い天皇御詞みことばを、ここに集合した親王しんのうおうしん・百かんの人々、天下の自由民も共にきこすやうにと申し上げる。ちん丈部はせつかべ姉女あねめといふ巫女み こ禁中きんちゅう召使めしつかふ者として、地位もげ、せいも改めて特別な待遇をした。それにもかかわらず、この女はちんに反逆の心を持ち、自分が主謀者となつて、忍坂女王おさかのおおきみ石田女王いしだのおおきみたちを一とし、申し上げるのも恐れ多い先帝せんていが、罪人として流された鹽燒王しおやきおうきさきくりや眞人まびと廚女くりやめもと祕密ひみつに通ひ、きたな惡心あくしんを持つしんなどと協力して、皇室の基礎を傾け天下をみだれしめ、罪を受けた冰上ひかみ鹽燒王しおやきおうである志計し け志麻呂し ま ろ皇位こういけようと相談した。そのため恐れ多くも天皇御髮みかみぬすまつつて不潔な佐保川さほがわに浮ぶ髑髏どくろの內部に入れて禁中きんちゅう持參じさんして三たびのろひをおこなつたのである。