21-3 皇太子を廢するの勅 孝謙天皇(第四十六代)

皇太子こうたいしはいするのみことのり(第三段)(天平寶字元年四月 續日本紀

其不孝之子、慈父難務、無禮之臣、聖主猶棄。宜從天發却還本色。亦由王公等盡忠匡弼、感此貴瑞。豈朕一人所應能致。宜與王公士庶、共奉天貺以答上玄、洗滌舊瑕、遍蒙新福、可大赦天下。

【謹譯】不孝ふこうは、慈父じ ふつとがたく、無禮ぶれいしんは、聖主せいしゅつ。よろしくてんしたがつて發却はっきゃく本色ほんしょくかえすべし。また王公等おうこうたちちゅうつくして匡弼きょうひつするにりて、貴瑞きずいかんず。ちんにんいたしておうずるところならんや。よろしく王公おうこう士庶ししょと、とも天貺てんきょうたてまつり、もっ上玄じょうげんこたへ、舊瑕きゅうか洗滌せんできし、あまね新福しんふくこうむるべく、天下てんか大赦たいしゃすべし。

【字句謹解】◯不孝の子 この場合は一ようの意味でなく、最上級をあらはすので、最も不孝ふこうの意となる。ある「無禮ぶれいしん」も同樣どうよう ◯慈父も務め難く 如何程いかほど慈愛じあいぶかい父でも不孝者ふこうもの孝行こうこうな者に直すことが出來ない ◯天に從つて發却し 天の命ずるままに地位から放つこと。これは道祖王ふなどのおうを皇太子の地位から退しりぞかしめるのを意味してゐる ◯本色に還すべし 元の地位に致す方がよろしい ◯匡弼 君主を輔佐ほ さする ◯貴瑞 天が善政ぜんせいに感じて示す吉兆きっちょう ◯天貺 天からあたへられたたまもの ◯上玄に答へ 天の仁惠じんけいおうずる意 ◯舊瑕を洗滌し 過去のあやまりを洗ひ流す ◯大赦 罪人を輕罪けいざいあるいは無罪にすること、皇室に慶事けいじがあれば常にこの事が行はれたのである。

【大意謹述】この上もない不孝ふこうな子は、如何い か慈悲じ ひぶかい父であつても、その心をへんじて孝行こうこうものにはなし難く、君臣くんしんれいを少しも知らないしんは、聖明せいめいきみであつても敎化きょうかの方法がないからててかえりみない。道祖王ふなどのおうまさにこの上もなく不孝ふこうな子であり、君臣くんしんれいを少しも知らないしんだといふことが出來る。ゆえ今囘こんかい天の命ずるままに、皇太子の地位を奪ひ、元の身分にかえすのがよろしいと考へる。又諸臣しょしんが常々忠義ちゅうぎに厚くちん輔佐ほ さして善政ぜんせいしたためにこの奇蹟きせきを見たのであるから、朕一人が得々とくとくとしておうじ喜ぶのが本意でない。王公おうこう及びその他の士人しじんに至るまで、朕と共に有難い天からのたまわり物を受け、天にたいして感謝し、過去のあやまりを洗ひ流し、すべての方面に新しい幸福こうふくを受けるのがよい。それに就いては每例いつもの如く、天下の罪人をすべて許すことにしたい。