21-2 皇太子を廢するの勅 孝謙天皇(第四十六代)

皇太子こうたいしはいするのみことのり(第二段)(天平寶字元年四月 續日本紀

於是三月二十日戊辰、朕之住屋承塵帳裏、現天下太平之字、灼然昭著。斯乃上天所祐、神明所標、遠覽上古、歷撿往事、書籍所未載、前代所未聞。方知、佛法僧寶、先記國家太平、天地諸神、預示宗社永固。戴此休符、誠喜誠懼。

【謹譯】ここいて三がつ二十戊辰つちのえのたつちん住屋じゅうおく承塵帳しょうじんちょううらに、天下てんか太平たいへいあらはるること、灼然しゃくぜんとして昭著いちじるし。すなわ上天じょうてんたすくるところ神明しんめいしめところとお上古じょうこ往事おうじ歷撿れきけんするに、書籍しょせきいませざるところ前代ぜんだいいまかざるところなり。まさる、佛法僧寶ぶっぽうそうほう國家こっか太平たいへいしるし、天地てんち諸神しょしんあらかじ宗社そうしゃ永固えいこしめすことを。休符きゅうふいただいて、まことよろこまことおそる。

【字句謹解】◯朕の住屋 天皇寢殿しんでんのこと ◯承塵帳 承塵しょうじんとはごみの落ちないやうに御座ぎょざの上に設けるちりけで、白布はくふで出來てゐるからちょうといつたのである ◯灼然として昭著し 非常に明瞭めいりょうな文字がよくめた ◯上天の祐くる所 天に居る佛陀ぶっだが同情されて援助されたてん ◯神明の標す所 神々かみがみが記して示したてん ◯往事を歷撿す 過去に起つた出來事をすべて調査しても、このたぐいは一も發見はっけん出來ない意 ◯方に知る ここに於いて始めてしることが出來たとのこと ◯宗社 國家こっかの義 ◯休符 神佛しんぶつ加護か ごを得たしるし。

【大意謹述】すると三月二十日戊辰つちのえのたつの日に、ちん寢殿しんでんの天井にれてゐるちりけの布の裏に「天下太平」といふ四字が光を放つて現はれ、非常によくめた。この奇蹟きせき勿論もちろん天にあられる佛陀ぶっだ御同情ごどうじょう神々御仁惠ごじんけいとにつて示されたもので、遠く大昔を考へ、過去に起つたすべての怪奇事かいきじを調べても、文獻ぶんけんにもなく、未だ誰の噂にもなかつた奇蹟きせきである。朕はここに於いて、佛法僧ぶっぽうそう所謂いわゆるぽう國家こっか太平たいへいとなることを記し、天地の神々が道祖王ふなどのおうはいすることにつて國家は益々ますます永久に堅固けんごになると知らせたもうたものとさとることが出來た。朕はこの神佛しんぶつ加護か ごあかしを得て、心から喜び、つ恐れつつしむ次第である。