14 東漢直等の罪を免ぜらるるの詔 天武天皇(第四十代)

東漢直やまとのあやのあたいつみめんぜらるるのみことのり(六年六月 日本書紀

汝等之黨族、自本犯七不可也。是以從小墾田御世、至于近江朝、常以謀汝等爲事。今當朕世、將責汝等不可之狀、以隨犯應罪。然頓不欲絕漢直之氏。故降大恩以原之。從今以後、若有犯者、必入不赦例。

【謹譯】汝等なんじら黨族やからは、もとより七不可ふ かおかせり。これもっ小墾田おはりだ御世み よより、近江おうみみかどいたるまで、つね汝等なんじらはかることをもっこととなす。いまちんあたりて、まさ汝等なんじら不可ふ かありさめむとす、もっつみのままにまさつみすべし。しかれどもひたぶる漢直あやのあたいうじたやさむことをおもはず。ゆえ大恩たいおんくだしてゆるしたまふ。いまより以後い ごおかものあらば、かなら不赦ふしゃかぎりれむ。

【字句謹解】◯黨族 一族の意 ◯七不可を犯す 七不可ふ か各條かくじょうは不明である。不可ふ かは罪のことで、崇峻すしゅん天皇五年に東漢直駒やまとのあたいこま大逆たいぎゃくを行つたこと、皇極こうぎょく天皇四年に漢直あやのあたいなどが眷屬けんぞくを集めて蝦夷え ぞくだつたこと、孝德こうとく天皇大化たいか元年に倭漢文直麻呂やまとのあやふみなおまろ人皇ふるひとのおうじと共に謀叛むほんしたことはにあるから、の四つもこのたぐいであらう。大逆たいぎゃくを犯した東漢直やまとのあやのあたい蘇我馬子そがのうまこに殺された ◯小墾田の御世 推古すいこ天皇御世み よ ◯近江の朝 天智てんち天皇御世み よ ◯汝等を謀ることを以て事となす 常々何かの機會きかいに於いて罰しようと考へてゐた ◯漢直の氏 應神おうじん天皇御代み よ來朝らいちょうした阿知使王あちのおみが、このうじ東漢直やまとのあやのあたいあるい倭漢直やまとのあやのあたい總稱そうしょうされた。これは河內かわちに居た所謂いわゆる西漢こうちのあや及びそののち來朝らいちょうした新漢いまきのあや區別くべつするためであつた。天皇はこの由緒ゆいしょあるうじを全滅させるに忍びられなかつたからこのおおせがあつたのであらう ◯不赦の例 特赦とくしゃにあづからないくみの人々。

【大意謹述】汝等なんじら東漢直やまとのあやのあたい一族は、過去に於いて七個の許すべからざる罪を犯してゐる。ゆえ推古すいこ天皇御世み よから天智てんち天皇御世み よに至るまで、代々の諸天皇は何等かの機會きかい汝等なんじら一族をつみしようと、平常から行狀ぎょうじょうに注意してをられた。今、ちんの世となつて、汝等なんじら一族の罪を所罰しょばつするに決し、一々犯した狀態じょうたいおうじて相當そうとうの罰を加へるであらう。ただちんとしては、古い由緒を持つてゐる漢直あやのあたいうじを一度に全滅させる意志は少しもない。ゆえに今度だけは特別の恩典おんとんを以てこれを不問にする。とはいへ、全くこれで罪が消え去つたのではない。今後し罪を犯す者があつたら、絕對ぜったい特赦とくしゃの及ばない人々の組に入れるであらうことを特に注意しておく。

【備考】聖恩せいおん洪大こうだい、由緒ある一族の罪をゆるやかにすべきむねおおせ出されたことは、東漢直やまとのあやのあたい一族をして感激せしめたにちがひない。更生して、罪をつぐなひ、至誠しせいを以て皇室に仕へる。これが漢直あやのあたい一族のくべき道であつた。