58-1 惟神の大道を宣揚するの勅語 明治天皇(第百二十二代)

惟神かむながら大道だいどう宣揚せんようするの勅語ちょくご(明治三年正月三日 太政官日誌)

朕、恭惟、天神天祖、立極垂統、列皇相承、繼之述之。祭政一致、億兆同心、治敎明于上、風俗美于下。而中世以降、時有汙隆、道有顯晦、治敎之不洽也久矣。今也、天運循環、百度維新。宜明治敎、以宣揚惟神之大道也。因新命宣敎師、以布敎天下。汝群臣衆庶、其體斯旨。

【謹譯】ちんうやうやしくおもんみるに、天神てんじん天祖てんそきょくとうれ、列皇れっこうあいけ、これぎ、これぶ。祭政さいせい億兆おくちょう同心どうしん治敎ちきょうかみあきらかにして、風俗ふうぞくしもうるはし。しか中世ちゅうせい以降いこうとき汙隆おりゅうあり、みち顯晦けんかいあり、治敎ちきょうあまねからざるやひさし。いまや、天運てんうん循環じゅんかんし、百維新いしんす。よろしく治敎ちきょうあきらかにして、もっ惟神かむながら大道だいどう宣揚せんようすべきなり。つてあらた宣敎師せんきょうしめいじ、もっ天下てんか布敎ふきょうす。なんじ群臣ぐんしん衆庶しゅうしょむねたいせよ。

【字句謹解】◯惟みるに ひろく時間的に考察すること ◯天神・天祖 天神てんじん高天原たかまのはらにまします皇室の御祖先ごそせんの意で、天照大御神あまてらすおおみかみを中心とした諸神しょじんを申したてまつる。天祖てんそは地上にあつて大御神おおみかみ御血統ごけっとういだ皇室の御先祖ごせんぞの意で、神武じんむ天皇を中心とした御詞みことばである ◯極を立て 我が皇室の基礎を建てられる ◯統を垂れ 後世に御血統を連綿れんめんれられる ◯列皇 神武じんむ以後の各天皇を指したてまつる ◯之を述ぶ 我が日本の建國けんこく精神せいしんを、そのまま實地じっちに就いておこなふこと ◯億兆 國民全部のこと ◯治敎上に明らかにして 政治や國民敎育の根本は、皇室に於いて最も模範的にはいせられる意 ◯風俗下に美し 下々しもじもの國民にまで純朴じゅんぼくな風俗がわたつてゐること ◯時に汙隆あり 時代によつて治敎ちきょうが、盛大となつたり衰へたりすることがあつた ◯道に顯晦あり 我が國固有の道が明らかになつたり暗くなつたりした ◯天運循環し 天神てんじん御意志ご い しのままに時代が再び一𢌞轉かいてんして元の狀態じょうたいに至ること、これは王政おうせい復古ふっこの意である ◯百度維新す 社會しゃかいの政治上のすべてがここに改新された ◯惟神の大道 神代かみよそのままの政敎せいきょうの日本固有の大道だいどうのこと。〔註一〕參照 ◯宣揚 高くかかげて四方に明らかにする ◯宣敎師 この時あらたに任命した我が神道しんどう布敎ふきょうの人々 ◯衆庶 一般國民のこと ◯斯の旨 ちんの考へてゐる王政おうせい復古ふっこ精神せいしん

〔註一〕明治維新當初とうしょに於ける排佛はいぶつ毀釋きしゃく運動は祭政さいせい精神せいしん復古ふっこ神道しんどう學派がくはとの活動につて著々ちゃくちゃく效果こうかを示し、明治二年三月には神佛しんぶつ判明はんめいれいが出て、續々ぞくぞく佛寺ぶつじの特典をはいし、神社じんじゃたいする保護が加はつた。ここではそれらの詳敍しょうじょを略して、明治四年七月にはっせられた御沙汰ご さ たしょの一節をかかげる。これは本勅ほんちょくを徹底させる目的で各藩かくはんくだされたので、本勅ほんちょくとは不可離ふ か り關係かんけいにある。

大政たいせい變更へんこうする所あるものは、世に古今あり。時に汙隆おりゅうあるを以てのことにて、元よりたみをしての心を正しくし、の職をいたし、以て昏迷こんめいを解き、終始あおいる所を知らしめんとたまふは、前聖ぜんせい後聖こうせい一なり。ゆえ大敎たいきょう宣布せんぷするもの、まことむね體認たいにんし、人情をかえりみてこれ調攝ちょうせつし、風俗を察してこれ提撕ていせいし、これをして感發かんぱつ奮興ふんこうし、神賦しんぷの知識をひらき、人倫じんりん大道だいどうを明らかにし、神明しんめいけいし、惠顧けいこ洪恩こうおんそむかず。聖朝せいちょう愛撫あいぶ盛旨せいしいただき、以て維新の隆治りゅうち歸向きこうせしむべくそうろう政教せいきょう御趣旨ごしゅし候事そうろうこと云々うんぬん

 なほ、後文こうぶん宣敎師せんきょうし云々うんぬんとあるのは、『宣敎師せんきょうし心得書こころえしょ』をへんして人材をげて宣敎せんきょうあたらしめたのである。

【大意謹述】ちんがここに最も愼重しんちょうな態度で過去・現在を考察するのに、天神てんじん天照大御神あまてらすおおみかみが我が皇室の御基礎を建てられ、皇祖こうそ神武じんむ天皇が第一代の皇位こういかせられて以來、皇室の御血統が連綿れんめんとしてつづき、各天皇がそれをけ、我が日本の建國けんこく精神せいしんを守つて、政治と祭祀さいしとは全然一致した。左樣そ うしたもとに國民全體ぜんたいは心を同一にし、皇室に於かせられては、國民道德どうとくの模範を示し、純朴じゅんぼくな風俗は下々しもじもにまでわたつて、申し分のない時をた。それにもかかわらず、中世から以後になると、時代につて治敎ちきょうが盛大になつたり衰へたり、道が明らかになつたり暗くなつたりすることがあつて、久しい間、皇化こうか道德どうとくとが皇室を中心として天下にひろがる時はなかつたのである。

 しかるに今や、時代は再び𢌞轉かいてんして、天神あまつかみの御意志を守つて、政治上の萬般ばんぱんを一新し、全然過去の弊害へいがいを改めることになつた。ゆえ我國わがくにの政治の本質や國民道德どうとくを明らかにして、神世かみよのままの純正な祭政さいせい大道だいどうを天下にひろく知らしめなければならない。ゆえにここに新たにその方面の役人を任命し、一般に神道しんどうの知識を養はせることにした。汝等なんじら群臣ぐんしん及び國民は、ちんがかくするに至つた理由を十分理解し、すみやかに惟神かむながら大道だいどうを天下に實現じつげんしてほしい。