54 大神宮に首服を告げ奉るの宣命 明治天皇(第百二十二代)

大神宮だいじんぐう首服しゅふくたてまつるの宣命せんみょう明治元年正月三日 復古記)

天皇詔旨、掛畏伊勢度會五十鈴河上下津磐根大宮柱廣敷立高天原千木高知、稱辭定奉天照座皇大神廣前美毛申賜波久止親王公卿等相共議奏、冠儀爾志氐、人主所重奈利。夫正月令行賜布者、古今通儀爾志氐我朝嘉例奈利。依是今正月吉日良辰擇定、首服加賜。掛畏皇大神厚垂賜、無事無故此令遂行賜比氐、長寶祚令保賜牟止所念行。故是以、王從五位下種弘王、中臣從二位行神祇大副大中臣朝臣敎忠等差遣、忌部正五位下齋部宿禰能弘弱肩太襁取懸禮代御幣持齋者利令捧持奉出賜。此狀聞⻝天皇朝廷寶位無動常磐堅磐夜守日守護幸賜、⻝國天下安穩太平護助賜倍止美毛申賜波久止申。

【謹譯】天皇すめら詔旨みことと、かけまくもかしこ伊勢い せ度會わたらい五十鈴い す ず河上かわかみ下津しもつ磐根いわね大宮柱おおみやばしらひろしきて、高天原たかまのはら千木ち ぎたかりて稱辭たたえごとさだまつ天照あまてらします皇大神すめらおおかみ廣前ひろまえかしこかしこみももうたまはくともうさく。親王しんのう公卿く げ相共あいとももうさく、冠儀かんぎれいはじめにして、人主じんしゅおもんずるところなり。それ正月しょうがつおこなはせたまふは古今ここん通儀つうぎにして我朝わがちょう嘉例かれいなりと。ここよっいま正月しょうがつ吉日きちにち良辰りょうしんえらさだめて、首服しゅふくくわたまふ。かけまくもかしこ皇大神すめらおおかみあつめぐふかたすけをたまひ、ことなく、ゆえなく、れいおこなはしめたまひて、なが寶祚ほうそたもたしめたまはむと所念おもほしめす。かれここもって、おおきみ從五位下おおきいつつのくらいのしも種弘王たねひろおう中臣なかとみ從二位行ひろきふたつのくらいのしな神祇大副かむつかさのおおすけ大中臣おおなかとみ朝臣あそみ敎忠のりただらを差遣さしつかはして、忌部いんべ正五位下おおきいつつのくらいのしも齋部宿禰いんべのすくね能弘よしひろ弱肩よわかた太襁ふとだすきとりけて禮代いやじろ御幣みてぐらいつきまはり、ささたしめて、いだまつたまふ。さまたいらけくやすらけく聞⻝きこしめして天皇すめら朝廷みかど寶位ほういうごきなく、常磐ときわ堅磐かきわ夜守よ も日守ひ もりにまもさきはひたまひ、⻝國おすくにあめした安穩あんのん泰平たいへいまもたすたまへとかしこかしこみも申賜もうしたまはくともうす。

【字句謹解】◯下津磐根 地下にある巖石がんせきそう巖石がんせきの根もと、『萬葉集まんようしゅうまき十五に「いはかねのあら島根しまね宿やどりする」とあるやうに「いわ」と同意義 ◯大宮柱廣しき立て 古代建築では、柱を地中に深く掘りたてたので、神殿しんでん・宮殿の事を「底津そこつ石根いわね宮柱みやばしら」とたたへていふのである。きは宮殿をいとなむこと ◯千木高知りて 神社じんじゃ建築によく見るやうに、屋上の左右兩端りょうたんに組みちがへた木がむねの上に高くそびえたつこと ◯冠儀 元服げんぷくの儀式、とし二十にしてかんむりかむれい ◯通儀 一般の儀禮ぎれいとしあまねく知らるる事 ◯良辰 よき時 ◯首服 元服げんぷくに同じ ◯故なく 異變いへんなくといふ義 ◯寶祚 天子の御位みくらい ◯ じゅしな云々うんぬんこうの一字が加はつてゐるのは、位が高く、職の低きをあらはす ◯忌部 幣帛へいはく祭器さいきを作るの名 ◯太襁取懸けて 上代じょうだいには貴人きじん⻝膳しょくぜんするもの、祭祀さいしいとなむものは、男女共にたすきをかけたのでかくふ ◯禮代の御幣 御禮おんれいそなへもの ◯齋きはまり いみきよめて持ちはこぶ ◯⻝國 しろしめすくにの意、すなわち統治せらるる國。

【大意謹述】天皇勅命ちょくめいつて、渡會わたらい五十鈴川いすずがわのほとりの莊嚴そうごん大宮おおみやいつまつれる、天照大御神あまてらすおおみかみ御前みまえつつしんで申上もうしあげる。親王しんのう公卿く げらがあい協議した上、申すやう、元服げんぷくの儀は、れいの始めにくらいするもので、人君じんくんたるものの大切にする所である。それも正月におこなふのが古今一般の習慣で日本國の美しく、よき例であると。右奏言そうげんにより今年の、よき時をえらび定めて、陛下には、元服げんぷくせられる事とあいつた。恐れ多い事ながら、大神おおかみにおかせられては、厚きめぐみ、深き助けをたまひ、何らの事故もなく、この大禮たいれいまっとうせしめられ、長く皇位こういたもたしめたまはんことを陛下には念願されてゐる次第である。それゆえおおきみじゅ位下い げ種弘王たねひろおう中臣なかとみじゅこう神祇大副かむつかさのおおすけ大中臣朝臣おおなかとみのあそん敎忠のりただらを差遣さしつかはし、忌部いんべしょう位下い げ齋部宿禰いんべのすくね能弘よしひろが肩にたすきを取りかけて、御禮おんれい幣物へいもつささげ持たしめて、ここまつらしめられる。このさまこころよく受けられて、皇位こういの上に變動へんどうなきやう、磐石ばんじゃくの如くたもたせたまひ、日夜にちや守りを加へ幸福こうふくあたへられ、天下太平を持續じぞくせしめたまへ。みぎ勅命ちょくめいほうじて、つつしんで大神おおかみ申上もうしあげる。