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52-3 石淸水社に內憂外患祈禱の宣命 孝明天皇(第百二十一代)

石淸水社いわしみずしゃ內憂ないゆう外患がいかん祈禱きとう宣命せんみょう(第三段)(元治元年九月 孝明天皇紀)

此狀聞⻝、縱時世禍亂奈利止毛、速靈驗垂給、戎夷凶徒攘退鎭壓給、自今已後、國災害民憂患皆悉未萌攘除給、四海平公民安、寶祚延長武運悠久常磐堅磐夜守日守護幸恤給倍止、恐美毛申給者久止申。

【謹譯】さまたいらけくやすらけくきこしめして、たと時世じせい禍亂からんなりとも、すみやかにたけきびしき靈驗しるしたまひ、戎夷じゅうい凶徒きょうとはら退しりぞしずおさたまひて、自今じこん已後い ごくに災害さいがいたみ憂患ゆうかんみなことごといまきざさざるのほかはらのぞたまひて、四かいたいらけく公民おおみたからやすらけく、寶祚ほうそ延長えんちょう武運ぶうん悠久ゆうきゅうに、常磐ときわ堅磐かきわ夜守よ も日守ひ もりにまもさきわめぐたまへと、かしこかしこみももうたまはくともうす。

【字句謹解】◯此の狀 この樣子ようす ◯時世の禍亂 一の騒ぎ ◯武く嚴しき 武力あり御威光ごいこうある意 ◯靈驗 不可思議なかみの援助 ◯國の災害 國の大害たいがい ◯民の憂患 國民の大きな心配 ◯寶祚延長に 皇位こういが永久に長く ◯武運悠久に 我が國の武威ぶ いが何物よりもまさること。

【大意謹述】かみには以上の樣子ようすを理解あつて、たとひそれがたんなる一の騒ぎであつて、それ程の事はないと考慮あられたとしても、早速御威力ごいりょくにより不可思議の冥助めいじょたまひ、異國人いこくじん及び今囘こんかい亂暴らんぼうを働いた者共ものどもを一そうし去られ、あるい鎭定ちんていせられて、今後は、異國人にる日本國の災難、暴漢ぼうかんる國民の心配をすべて未だ大きくならない間に除かれたい。かうして國中くにじゅうが平和に國民が安堵あんどし、皇位こうい永續えいぞくして日本の武威ぶ い無窮むきゅう發展はってんし、皇室がこの上もなく基礎を固くするやう、日夜加護か ご幸福こうふくとをあたへられたい。以上おそつつしんで申し上げるとの陛下のおおせを告げたてまつる。

【備考】當時とうじ內憂ないゆう外患がいかんは、蒙古もうこ襲來しゅうらいの時などよりも、一そう大きく、また深かつた。蒙古もうこ襲來しゅうらいのときには、擧國きょこくよく一致したが、幕末には、朝廷の御方針と幕府の方針が一致せず、また佐幕さばく開港かいこう派と尊王そんのう攘夷じょうい派の爭鬪そうとうがあつて、思想上にもはげしい動搖どうようがあつた。したがつて、孝明こうめい天皇御苦心ごくしんは、容易でないのである。

 陛下はこの國難こくなん打破について、いろいろ叡慮えいりょをつくされ、政治上、幕府を指導あらせられたが、一方において、その敬神けいしんにより、國難を打拂うちはらはうと、神々かみがみいのられた。それと共に、國民に向つても、「國人こくじん心を同じくし、雄々お おしくはげしく、彼等(外夷)が殊俗ことぶり勦絕た やさしめ」(文久三年八月の石淸水放生會の宣命)とおおせられ、國民が陛下の御旨おんむたいして、雄々お おしく力强ちからづよくなり、日本に向つて侵略の魔手ましゅふるはうとする歐米おうべい壓力あつりょく打拂うちはらうやう、切に望ませられたのである。今日こんにち、これを思ふと、陛下の大御心おおみこころたいし、感泣かんきゅうせざるを得ないと同時に、昭和の國難打開に奮進ふんしんせねばならぬ事を痛感する。