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46-3 國難の平定を祈るの宣命 伏見天皇(第九十二代)

國難こくなん平定へいていいのるの宣命せんみょう(第三段)(正德六年七月 公卿勅使參宮次第)

加之、頃者天變屢呈、地妖頻示。又旱炎渉旬、稼穡不節阿良須。云彼云是、一歎一愼。是則朕薄德令然、日本久其柄、國策朝典衰微、州縣郷邑凋弊志氐、賢人聖人不佐、宗廟社稷不與奈利

【謹譯】加之しかのみならず、頃者このごろ天變てんぺんしばしばあらはれ、地妖ちようしきりしめす。また旱炎かんえんじゅんわたりて、稼穡かしょくせっせずんばあらず。かれおもこれおもひ、一たびはなげき一たびはつつしむ。すなわちん薄德はくとくしからしむるうえに、日本にほんひさしくへいうしなひて、國策こくさく朝典ちょうてん衰微すいびし、州縣しゅうけん郷邑きょうゆう凋弊ちょうへいして、賢人けんじ聖人せいじんたすけず、宗廟そうびょう社稷しゃしょくくみせざるゆえなり。

【字句謹解】◯加之ず 一ぶつ他物たぶつが加はる時に使用することば、それのみではなく ◯天變 平常ふだんとはことなつた氣候きこうになること ◯地妖 天變てんぺんと同じ意で、各種の人事以外の不祥事ふしょうじを指したもの ◯旱炎 雨が少しもない意 ◯旬を渉りて じゅんは十日間の意、すう十日間も降雨がない意 ◯稼穡節せずんばあらず 秋の收穫しゅうかくは例年よりも不足するに相違そういない ◯薄德 とくの少いこと ◯其の柄を失ひて いきおいを失ふ ◯國策 國運こくうん發展はってんのためにとる一定の方針 ◯朝典 朝廷で行ふ儀式 ◯凋弊 生活力を失ふ ◯宗廟 御先祖ごせんぞのおたまや ◯社稷 神々かみがみ

【大意謹述】一方に外交上の困難が起つたのみならず、近頃では天變てんぺん地異ち いが度々起りかず多くの不祥事ふしょうじを示した。その上、すですう十日間降雨がなく、秋の收穫しゅうかくが不足するのは目に見えてゐる。ちんげんとの關係かんけいを考へ、國內の不祥事ふしょうじを思ふごとに、前者に就いては悲しみ、後者に就いては身をつつしむばかりだ。これといふのも、全く朕にとくが少いからだと考へる。かえりみれば我が國は久しい以前から勢力を失ひ、國としての一定の方針・朝廷で行ふ儀典ぎてんもすたれ、各地方の郡縣ぐんけんも生活力を失ひ、賢人けんじ聖人せいじんたすけて下さることなく、御祖先ごそせんびょう神々かみがみも十分にまつられず、したがつて我々にくみせられない。今囘こんかい國難こくなんは全く以上の結果だともいへるのである。

【備考】陛下は、この非常時にみずから反省せられ、在來ざいらい、いろいろの弊風へいふうがあつたことを遺憾いかんとし、そのために、諸天しょてん善神ぜんじんも、日本にくみしなくなり、元兵げんぺいが攻めよせるやうになつたのだと解釋かいしゃくされた。を責めずして、みずから責め、を非難せずして、みずか道德的どうとくてき向上をつとめられた陛下の叡慮えいりょのほどは、まことかしこしといはねばならぬ。