其旨遠聞驚支、殊歎太坐古止無限志。偏是朕加菲德爾依、民乃菜色有加止、慙懼之至、寤寐仁不休、掛畏幾大神、鎭護乃誓不誤志天、豐饒乃世爾早成給倍止所念行氐奈牟。故是以、古日良辰乎擇定天、官位姓名乎差使、禮代乃大幣遠令捧持氐奉出給布。
【謹譯】其の旨を聞し驚き、殊に歎き太く坐ますこと限なし。偏へに是れ朕が菲德に依り、民の菜色有るかと、慙懼の至り、寤寐に休まず、掛けまくも畏き大神、鎭護の誓誤まらずして、豐饒の世に早や成し給へと念ほしめしてなむ。故れ是を以て、吉日良辰を擇び定めて、官位姓名を差使はし、禮代の大幣を捧げ持たしめて出し奉り給ふ。
【字句謹解】◯菲德 德の少ないこと、上に立つ方の德が少なければ神明の加護も減じ、一國に不幸が多くなるとする儒敎思想である ◯民の菜色あり 菜色は『禮記』にある詞で、國民が⻝用にうゑて顏色が蒼くなること ◯慙懼の至り 身を省みて非常にはづかしく考へる ◯寤寐に休まず 寢ても覺めてもその氣持から離れず、心が安穩にならない ◯豐饒の世 五榖成就して民の生活が安定する世の中。
【大意謹述】今春以來、地方に飢饉の樣子があることを聞き、大いに驚き悲むこと限りがない。これ全く朕の不德のため國民が⻝物に不足して、顏に血の氣がなくなつたのだと思ひ、この上なく身を恥ぢてゐる。寢ても覺めても心を休ませる事がない。口にするのも恐れ多いが、大神の國家鎭護の約を誤られないで、五榖がよく稔り、國民生活の上に不足のない長閑な世の中に一日も早くし給はんことを只管希ふのみである。以上の思召で今囘、最上の吉日を撰んで、某官にある某人を派遣し、御禮の大幣帛を捧げ、國民の幸福を祈る次第である。
【備考】本勅を拜讀すると、陛下が、切に國民の幸福を念としてをられることが窺はれる。一語一言、悉く痛切で、それは國民への御同情の結晶だ、「寢ても、さめても氣にかかるのは國民が飢饉のため不自由してゐる一事だ」と仰せられてゐる。神も、かうした深甚な仁慈の情には必ず感應されたにちがひない。陛下の洪大な御思ひやりは、丁度、自分の愛兒の病めるのを一日も早く癒さうとする兩親のやうに、泌々と國民の胸に響くものがある。