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39 諸神に奉幣するの勅 淸和天皇(第五十六代)

諸神しょしん奉幣ほうへいするのみことのり(貞觀八年四月 三代實錄)

去閏三月十日夜、應天門及東西樓觀、忽有火灾、皆悉灰燼。求之蓍龜、猶見火氣。自非神助、灾何消伏。宜令五畿七道、奉幣境內諸神。仍須長官潔齋、躬向社頭、敬以奉進、必致如在。

【謹譯】いぬうるう三月十日應天門おうてんもんおよ東西とうざい樓觀ろうかんたちま火灾かさいありて、みなことごと灰燼かいじんす。これ蓍龜き きもとむるに、火氣か きゆと。神助しんじょにあらざるよりは、わざわいなん消伏しょうそくせん。よろしく五・七どうをして、境內けいだい諸神しょしん奉幣ほうへいせしむべし。すなわすべからく長官つかさのおさ潔齋けっさいし、みずか社頭しゃとうむかひ、つつしんでもっ奉進ほうしんし、かならおわしますがごといたすべし。

【字句謹解】◯應天門 宮中の八省院しょういん南面の正門のしょうで、東西の廊下はおよそ四十六けんあり、その中間の十じょうを占めてゐる。桓武かんむ天皇の創立 ◯東西の樓觀 應天門おうてんもんの東西にある栖鳳樓せいほうろう(西)翔鵉樓しょうらんろう(東)の二ろうのこと。樓觀ろうかんとは、二ろうの姿や形の事 ◯火灾 火災と同じ ◯灰燼 灰となつてしまつた。すつかり燒失しょうしつした意 ◯蓍龜に求むるに 龜卜きぼくに試みる事、かめの甲をいて、その割れ目の形で吉凶を判斷はんだんする方法 ◯消伏 消え失せる ◯潔齋 身をつつしみ、すべての不淨ふじょうと接しないやうにする意 ◯奉進し 幣帛へいはくたてまつつて神慮しんりょうかがふこと。多くの場合米榖べいこくなどを奉納するのである ◯在すが如く致す 目の前にかみがゐますが如くにつつしむ意。

〔注意〕淸和せいわ天皇貞觀じょうがん八年うるう三月十日に、伴善男とものよしおの放火につて應天門おうてんもんその他が燒失しょうしつした。朝廷では之を何かの不祥事ふしょうじ前兆ぜんちょうとして諸山陵さんりょう神社じんじゃ奉幣ほうへいし、同年九月、犯人を伊豆に流したのである。本火災にかんする詔勅しょうちょくとしては、ほ左の如きものがある。

(一)楯列たたなみ山陵さんりょうに告げたてまつるの宣命せんみょう(貞觀八年六月、三代實錄)(二)伊勢い せ大神宮だいじんぐうに告げ奉るの宣命(貞觀八年七月、三代實錄)(三)南海道なんかいどう諸神しょしん班幣はんぺい宣命(貞觀八年七月、三代實錄)(四)田邑たむら山陵さんりょうに告げ奉るの宣命(貞觀八年八月、三代實錄)(五)伴善男とものよしお處刑しょけい宣命(貞觀八年九月、三代實錄)(六)深草ふかくさ山陵さんりょうに告げ奉るの宣命(貞觀八年九月、三代實錄)(七)柏原かしわはら山稜さんりょうに告げ奉るの宣命(貞觀八年九月、三代實錄)

なほ、その根本精神せいしんは、天變てんぺん地異ち いたいする祈禱きとうと同じで、淸和せいわ天皇だいに於ける例を次にげると、

(八)祈雨き う宣命せんみょう(貞觀三年五月、三代實錄)(九)五どうに下し給へるみことのり(貞觀五年三月、三代實錄)(一〇)豐前國ぶぜんのくにまん大菩薩だいぼさつ奉幣ほうへい宣命(貞觀七年二月、三代實錄)(一一)山階やましな山陵さんりょうに告げたてまつるの宣命(貞觀七年二月、三代實錄)(一二)松尾まつお大神だいじん奉幣ほうへい宣命(貞觀八年七月、三代實錄)(一三)止雨し ういのるの宣命(貞觀九年五月、三代實錄)(一四)わざわいはらふのみことのり(貞觀九年十一月、三代實錄)(一五)田邑たむら山陵さんりょうに告げ奉るの宣命(貞觀十年二月、三代實錄)(一六)廣田大神ひろたのおおかみに告げ奉るの宣命(貞觀十年閏十二月、三代實錄)(一七)祈雨き う宣命(貞觀十一年六月、三代實錄)(一八)大神宮だいじんぐう奉幣ほうへい宣命(貞觀十一年十二月、三代實錄)(一九)甘南かんなび神社じんじゃ奉幣ほうへい宣命(貞觀十二年二月、三代實錄)(二〇)止雨し ういのるの宣命(貞觀一二年六月、三代實錄)(二一)賀茂か も神社じんじゃ奉幣ほうへい宣命(貞觀十五年十一月、三代實錄)(二二)賀茂か も神社じんじゃ奉幣ほうへい宣命(貞觀十六年八月、三代實錄)(二三)祈雨き う宣命(貞觀十七年六月、三代實錄)(二四)柏原かしわはら山陵さんりょうに告げたてまつるの宣命(貞觀十八年五月、三代實錄)(二五)諸國の名神めいしん奉幣ほうへい宣命(貞觀十八年十月、三代實錄)の詔勅しょうちょくがある。

【大意謹述】本年のうるう三月十日の夜にあたつて、宮中の南面にあた應天門おうてんもんから發火はっかし、たちまちの間に同門及びその東西にある二ろうき、全部がことごとく灰となつてしまつた。例によつて龜卜きぼくうらなふと、未だ火氣か き何處ど こかにのこつてゐるとのことである。この上は神々の御加護ご か ごたよらなくては、決して災害を根本から防ぎるものではない。早速五どう國司こくしに命じ、管轄かんかつ區域くいきにある諸神しょじん幣帛へいはくたてまつつて、再びこの不祥事ふしょうじのないやういのらなければならない。各地方の長官は、身をつつし不淨ふじょうを避け、みずか神社じんじゃに出向き、かみけいして幣帛へいはくたてまつり、目の前に神がゐますが如く、懸命となつていのるがよい。