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36 神功皇后の御陵に奉告するの宣命 仁明天皇(第五十四代)

神功じんごう皇后こうごう御陵ごりょう奉告ほうこくするの宣命せんみょう(承和六年四月 續日本後紀

天皇我詔旨良萬止恐美恐美毛申賜閇止申久、比日御陵乃木伐止聞⻝爾依天、差使天撿見爾實有氣利。因茲天恐畏己止無極、御陵守等乎波、犯狀乃隨爾勘科勘賜牟止定太利。比日之間、旱災有良牟止畏天、左右爾念賜爾、掛畏支天朝乃護賜比矜賜爾依氏之、此灾波滅天、國家波平介久無事久可有止思賜天奈毛、參議從四位下守刑部卿安倍朝臣安仁、從四位下中務大輔兼備前守朝臣名虎等乎差使天、護賜比矜賜閇支狀乎申賜久止申。

【謹譯】天皇すめら詔旨みことらまとかしこかしこみももうたまへともうさく、比日このごろ御陵みはかるときこしめすによって、使つかいつかわしてしらるにまことにありけり。ここつておそつつしむこときわまりなく、御陵守みはかもりどもをば、おかせるさままにまに勘科勘つ み したまはむとさだめたり。比日このごろあいだひでりわざわいあらむとおそれて、左右さゆうおもたまふに、かけまくもかしこ天朝みかどまもりたまひあわれたまふにりてし、わざわいほろびて、國家くにうからたいらけくことなくあるべしとおもたまひてなも、參議おおまつりごとびと從四位下守ひろきよつのくらいのしもつしなのかみ刑部卿ぎょうぶきょう安倍朝臣あべのあそみ安仁やすひと從四位下ひろきよつのくらいのしもつしな中務大輔なかつかさのおおすけけん備前守びぜんのかみ朝臣きのあそみ名虎なとらたち使つかはさして、まもたまあわれたまふべきさまもうたまはくともうす。

【字句謹解】◯らまと 確かに申し上げる意 ◯御陵 神功じんごう皇后こうごう御墓地おんぼちのこと ◯犯せる狀の隨に 罪の輕重けいちょうしたがつて ◯旱災 降雨が少しもないこと ◯左右に念ひ賜ふに いろいろとそれの對策たいさくを考へる ◯參議 朝政ちょうせい參與さんよする役、諸官のうち四位以上にある者の中から一定の職をて、しかも才能ある者に限り選ばれた ◯中務大輔 中務省なかつかさしょう次官じかん至尊しそんして儀禮ぎれいたすけ、諫儀かんぎたてまつる。

〔注意〕しょ神社じんじゃ境內けいだい、及び諸天皇御陵ごりょうたいたてまつつて無禮ぶれい行爲こういあるものがあれば、そのために神々がいかられて天變てんぺん地異ち いを生ずると信じてゐた當時とうじでは、天變てんぺん地異ち いがあると、その原因をかうしたてんに求め、罪人をばっし、そのよしを報告した。本詔ほんしょうの他に

(一)柏原かしわはら山陵さんりょう奉告ほうこくするの宣命せんみょう(承和八年十月、續日本後紀)が拜誦はいしょう出來る。又天皇御病氣ごびょうきの原因をここに求めたものとしては、

(二)御病狀ごびょうじょう柏原かしわはら山陵さんりょうに告げたてまつるの宣命(嘉祥三年二月、續日本後紀)(三)同山陵さんりょう奉告ほうこくするの宣命(嘉祥三年三月、續日本後紀)(四)再び柏原かしわはら山陵さんりょうに告げたてまつるの宣命(嘉祥三年三月、續日本後紀)などがある。

【大意謹述】天皇おおせられる御詞みことばを確かに神功じんごう皇后こうごう御陵ごりょうに、つつしんで申上もうしあげる。近頃御陵ごりょうの木をる者があつたとの噂を聞いて、ただちに使者に命じて實否じっぴをたしかめたところ、その噂は眞實しんじつであつた。ここに至つて神にたいして恐れ、身をつつしむことが極まりなく、神聖しんせい御陵ごりょうけがたてまつつた御陵ごりょう番人ばんにんを捕へ、犯した罪の輕重けいちょうしたがつて相當そうとう處罰しょばつを加へる事に決定した次第である。ちんは近頃の天氣てんき樣子ようすでは、今年も降雨が少しもないのであらうかと憂へてゐる。そこでいろいろと考へ、口のに掛けるのもおそれ多い御先祖ごせんぞ御靈みたまが、保護し同情されることにつて、豫想よそうされる災難を防ぎ、國家は無事平安になるに相違ないと信ずる。以上のむねにより今囘こんかい參議さんぎじゅ下守げのかみ刑部卿ぎょうぶきょう安倍朝臣あべのあそん安仁やすひと、及びじゅ位下いげの中務大輔なかつかさだゆうけん備前守びぜんのかみ朝臣きのあそん名虎なとらなどを使はし、御陵ごりょうに向つて冥助めいじょを願ふ次第である。以上の大御言おおみことばをここに告げ知らせたてまつる。

【備考】ここにも、仁明にんみょう天皇敬神けいしん思想がよく現はれてゐる。神功じんごう皇后こうごう御陵ごりょうの木を伐採ばっさいしたことは大不敬だいふけいの至りで、天皇がこれを恐懼きょうくせられ、皇后の御靈みたまわびなされたと同時に、深くその冥助めいじょあおがれたところに眞摯しんし謹嚴きんげん御精神ごせいしんはいすることが出來る。