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28-1 大嘗會の日、群臣に下し給へる宣命 稱德天皇(第四十八代)

大嘗會だいじょうえ群臣ぐんしんくだたまへる宣命せんみょう(第一段)(天平神護元年十一月 續日本紀

今勅、今日大新嘗猶良比豐明聞行日在。然此遍與利在故、朕御弟子等之天菩薩受賜在。此、上三寶供奉、次仁方天社國社神等乎毛爲夜備末都利、次仁方供奉親王多知多知百官人等、天下人民、諸愍賜慈賜牟等天奈毛、還復天下治賜。故汝等於多比、由紀須伎二國禮留黑紀白紀御酒、赤丹多末惠良、常賜酒幣方利退天奈毛、御物賜方久止宣。

【謹譯】いまりたまはく、今日きょう大新嘗おおにえなおらひの豐明とよのあかりきこしめすにあり。しかるにたびつねよりことにあるゆえは、あれほとけ御弟子み で しとして菩薩ぼさついみことたまひてあり。これよって、かみかた三寶ほとけそなへまつり、つぎにはあまやしろくにやしろかみたちをもゐやびまつり、つぎにはそなへまつる親王み こたちおみたち百官もものつかさひとたち、あめした人民おおみたからもろもろあわれみたまひめぐみたまはむとおもほしつなも、かえりてあめしたおさめたまふ。いましたちもやすくおだひにはべりて、由紀ゆ き須伎す きこくたてまつれる黑紀くろき白紀しろき御酒み きを、赤丹あかたのほにたまへゑらぎ、つねもたまふ酒幣さかまいものたまはりもちて退まかれとしてなも、大御物おおみものたまはくとりたまふ。

【字句謹解】◯ 天平てんぴょう神護しんご元年十一月二十三日のこと ◯大新嘗 大嘗祭だいじょうさいと同じ ◯直らひ 普通と書く、さいをゆるめて平常にかへること ◯豐明 新嘗祭しんじょうさいの翌日、すなわ陰曆いんれき十一月なかたつの日に、天皇新榖しんこくきこし、群臣ぐんしんにもたまふ節會せちえしょうただしこの場合は大嘗祭だいじょうさいの翌日の酒宴のことを意味する ◯此の遍 今度と同じ ◯常より別にある 每年まいとしあるい每代まいだいの例とことなる ◯菩薩の戒をうけたまひてあり 所謂いわゆる菩薩戒ぼさつかいを受けて佛門ぶつもん歸依き えしてゐる ◯三寶 ぶつほうそうのこと ここではほとけのみを意味する ◯天つ社 天神あまつかみを祭つた神社じんじゃ ◯國つ社 地祇ち ぎを祭つた神社じんじゃ ◯ゐやびまつり けいたてまつる ◯還りて復た天の下を治めたまふ 再び御位みくらいかせられた。言ふまでもなく孝謙こうけん天皇重祚じゅうそして稱德しょうとく天皇となりたもうたこと ◯おだひ ゆつくりと ◯由紀・須伎 悠紀ゆ き主基す きのこと、本詔ほんしょうの直前に謹述きんじゅつした『由紀ゆ き須伎す きこくかみに下し給へる宣命せんみょう』參照 ◯黑紀 黑酒くろざけのこと、禮酒あまざけ久佐木く さ ぎの灰を入れて製した酒 ◯白紀 禮酒あまざけのこと、白酒しろざけ ◯赤丹のほ 酒をんでほほえて赤くなること ◯たまへ 飮⻝いんしょくすること ◯ゑらぎ 歡喜かんきする ◯常もたまふ 大嘗會だいじょうえ豐明とよのあかりにはいつもたまはるものの意 ◯酒幣の物 宴會えんかいの時に渡されるみやげ ◯大御物 天子からたまはるもの。

〔注意〕大嘗祭だいじょうさいみことのり本來ほんらいならばざつる性質ではあるが、本詔ほんしょう神道しんどうとの關係かんけいが特に深いので本篇に入れた。神佛しんぶつ混合思想が合理化されてゐるてん、注意すべきものがある。稱德しょうとく天皇御世み よの政治方針の一部をここによく反映してゐる。ほ「御弟子み で し等之天」は諸本に「等天」とあるが、本居本もとおりぼんよって「」を加へた。

【大意謹述】今、大嘗祭だいじょうさいを終つて、ちんは改めて諸神しょじんに申し上げる。今日は大嘗祭だいじょうさいの儀式が終つて平常にかへる酒宴しゅえんを行ふ日である。しかるに今度の事が平常のものとことなつてゐる理由は、朕が現にほとけ御弟子み で しとして佛敎ぶっきょう歸依き えしてゐる事實じじつである。このゆえ今囘こんかいづ第一にほとけ供養くようし、次に我國わがくに固有の天神てんじん地祇ち ぎはいし、更に次には朕に奉仕する諸親王しんのう・諸しんその他百ぱんの朝廷の人々、及び國民一同に同情し、ほとけの道につて仁慈じんじを加へようと考へればこそ一度退位した天皇御位みくらいかえつて、再び天下を支配するのである。ゆえ汝等なんじらも少しの不安もなくゆつくりとした氣持きもちで、悠紀ゆ き主基す き卜定ぼくていされた美濃み の越前えちぜんの二こくから獻上けんじょうした黑酒くろき白酒しろきを十分にみ、ほほを赤く染めて酒宴しゅえんの喜びを共にし、いつも酒宴の際にたまわ贈物おくりものを受けて各自の家にかえるやうにするがよい。みぎ叡慮えいりょあり、ここに 贈物おくりものたまよしおおせ出されたことを告げる。