25 諸國に佛像・佛殿を造るの詔 孝謙天皇(第四十六代)

諸國しょこく佛像ぶつぞう佛殿ぶつでんつくるのみことのり天平勝寶八歳六月 續日本紀

頃者分遣使工、撿催諸國佛像。宜來年忌日必令造了。其佛殿兼使造備。如有佛像竝殿已造畢者、亦造塔令會忌日、夫佛法者、以慈爲先。不須因此辛苦百姓。國司竝使工等、若有稱朕意者、特加褒賞。

【謹譯】頃者このごろ使工しこう分遣ぶんけんし、諸國しょこく佛像ぶつぞう撿催けんさいす。よろしく來年らいねん忌日きじつに、かなら造了つくりおわらしむべし。そのぶつ殿でんねてつくそなへしむ。佛像ぶつぞうならび殿でんすでつくおわるあるものも、またとうつくつて忌日きじつかいせしむ。佛法ぶっぽうは、もっさきとなす。これつて百せい辛苦しんくすべからず。國司こくしならび使工しこうちんしょうするあるものあらば、とく褒賞ほうしょうくわへん。

【字句謹解】◯使工 佛工ぶっこう及び建築工けんちくこうのこと ◯分遣し 諸方に派遣する ◯撿催す 調査する ◯來年の忌日 聖武しょうむ天皇天平てんぴょう勝寶しょうほうさい五月三日に崩御ほうぎょせられたので、來年らいねん忌日きじつとは九歳五月三日のこと ◯造了 造りをはること ◯慈を以て先となす 慈悲じ ひを第一の要素とする、慈悲とはほとけ衆人しゅうじんに深く同情して、救濟きゅうさいすることである ◯辛苦 ここではおおいに苦しめる意 ◯褒賞を加ふ 褒美ほうびあたへる。

〔注意〕聖武しょうむ天皇我國わがくにに於いて至尊しそん剃髪ていはつ初例しょれいを開きたもうた御方おかたである。その御供養ごくようあたつて本詔ほんしょうはっせられたのも、決して偶然ではない。なほ、本詔ほんしょうと同時に

(一)東大寺とうだいじ大佛殿だいぶつでん歩廊ほろう營造ぞうえいちょく天平勝寶八歳六月、續日本紀)が發布はっぷされた。目的はやはり同一である。

【大意謹述】ちんは近く佛工ぶっこう及び寺院の建築工を諸地方に派遣して、諸國の佛像ぶつぞうを調査することにした。これは來年らいねん忌日きじつまでに必ずそれらを完成させたいと願ふ意味にほかならない。佛像ぶつぞう佛殿ぶつでんとも共に造り備へさせたく思ふので、しこの兩者りょうしゃげんに申し分なく出來上つてゐるものも、塔を造つてその日まで完成するやうに致して欲しい。ただし、ほとけの法は諸人しょにんへの同情を第一としておしへられてある。このゆえに、あらたに造設する場合にも國民を苦しめることがあつてはならない。諸國司こくし及び佛工ぶっこう・建築工などが、朕の意を十分に守つて、これを人々につたへ、心持こころもちよく出來上らせたならば、朕は特に褒美ほうびあたへるであらう。