24-10 陸奥國より黄金を出せる時下し給へる宣命 聖武天皇(第四十五代)

陸奥むつのくにより黄金こがねいだせるときくだたまへる宣命せんみょう(第十段)(天平勝寶元年四月 續日本紀

又、五位已上子等治賜。六位已下冠一階上給東大寺人等二階加賜正六位上爾波子一人治賜。又、五位已上、及皇親年十三已上、无位大舍人等、至于諸司仕丁麻弖爾、大御手物賜。又、高年人等治賜、困乏人惠賜、孝義有人其事免賜、力田治賜。罪人赦賜。又、壬生治賜、知物人等治賜。又、見出金人、及陸奥國國司郡司百姓至麻弖爾治賜、天下百姓衆撫賜惠賜久止天皇大命、衆聞食宣。

【謹譯】また五位いつつのくらいよりかみつかたの子等こどもおさめたまふ。六位むつのくらいよりしもつかたにかがふり一階ひとしなげたまひ、東大寺ひがしのおおでらつくれる〕人等ひとども二階ふたしなくわへたまひ、正六位上おおきむつのくらいのかみつしなには一人ひとりおさめたまふ。また五位いつつのくらいよりかみつかた、およ皇親みうからとし十まり三つより已上か みなる、くらいなき大舍人おおとねりども、もろもろつかさ仕丁つかえよほろいたるまでに、大御手おおみてものたまふ。またとしたかひとどもおさめたまひ、困乏ま ずしきひとめぐみたまひ、孝義こうぎあるひとことゆるしたまひ、力田りきでんおさめたまふ。罪人つみびとゆるしたまふ。また王生ふむやわらわおさめたまひ、もの人等びとどもおさめたまふ。またくがねでたるひとおよ陸奥みちのくくに國司みこともち郡司こおりのみやつこ百姓おおみたからいたるまでにおさめたまひ、あました百姓おおみたからもろもろでたまひめぐみたまはくとりたまふ天皇すめら大命おおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯冠一階上げたまひ 冠位かんいを一階上げること、冠位かんいとは宮中に於ける地位のことで、聖德太子しょうとくたいしの十二階の制度後、あるいは十三階、十九階、二十六階などに改められた ◯子一人 子供の內の一人のこと ◯大舍人 天皇雜用ぞうように使ひたまふ舍人とねり ◯諸の司の仕丁 諸官司かんしが使ふ下役 ◯大御手つ物 天皇御調度品ごちょうどひん ◯孝義ある人 孝行こうこうの聞えの高い人 ◯其の事 課役かやくの意 ◯力田治めたまふ 力田りきでんは「りよくでん」ともくんじて農作に骨折ること、ここでは田地でんちの意味となる ◯王生 書生ふみならふひと又は壬生み ぶ誤寫ごしゃではないかといはれてゐる。すなわ大學寮だいがくりょう學生がくせいのことであらうとはれる ◯物知り人 大學寮だいがくりょうの諸博士を意味したものらしい ◯金を見出でたる人云々 黄金こがね發見はっけんした人。〔註一〕參照。

〔註一〕金を見出でたる人 この時の恩賞おんしょう黄金こがね九百りょう獻上けんじょうした敬福きょうふくを特に感賞かんしょうせられ、じゅ位上いじょうから一躍して、じゅ昇叙しょうじょせられた。その他、陸奥むつのすけ佐伯全成さえぎのうつなり始め鎭守府ちんじゅふ判官はんがんらをじゅ位上いじょうじょせられ、こがねた人、丈部大麿はせべのおおまろこがね發見はっけんした山の神主かんぬし日下部深淵くさがべのふかぶちらに向つても、それぞれ恩命おんめい御沙汰ご さ たがあつた。またこがねきたえたものもしょうせられたのである。かくして年號ねんごう天平てんぴょう感寶かんぽう改元かいげんせられた。

【大意謹述】又、五位以上の人々の子供には特別の待遇をあたへ、六位以下は冠を一階のぼせ、東大寺建立こんりゅうに直接關係かんけいのあつた人々には二階を加へられ、しょう位上いじょうからは子供の內の一人に恩賞おんしょうたまはることにした、更に五位以上の人々、及び皇族の十三歳以上から、下は無位む い天皇雜用役ぞうようやく、諸官司かんしつかへる下役に至るまでに、天皇御調度品ごちょうどひんたまふ。その他、老年者ろうねんしゃ扶養ふようし、貧窮者ひんきゅうしゃを救ひ、孝行こうこうの評判高いものには課役かやくめんじ、開拓した田地でんちを授け、罪人は大赦たいしゃされる。又、大學寮だいがくりょう學生がくせいに物をたまひ、諸博士にも恩賞おんしょうを授ける、更に今囘こんかい黄金こがね發見はっけんした人々、及び陸奥む つ國司こくし郡司ぐんじ、その地方の人民に至るまで恩典おんてんれ、天下一般の民をもこの上ともに愛撫あいぶしたいと陛下はおおせられる。以上天皇大御言おおみことを、神佛しんぶつ及び一同の方々もきこされるやうにと申し上げる。

【備考】孝子こうししょうし、德行者とっこうしゃを表彰して、よき風化を天下に及ぼさうとせられた御心みこころは、當時とうじの人々にもよく通じたことであらう。佛敎ぶっきょうを中心として、敎化きょうかせらるるにつけても、日本精神せいしん中樞ちゅうすうたる忠孝ちゅうこうぽんといふことを何處迄どこまでも、尊重せられたのは、聖武しょうむ天皇が、國民道德どうとくを十分に認識せられためだと拜察はいさつする。