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24-8 陸奥國より黄金を出せる時下し給へる宣命 聖武天皇(第四十五代)

陸奥むつのくにより黄金こがねいだせるときくだたまへる宣命せんみょう(第八段)(天平勝寶元年四月 續日本紀

又三國眞人、石川朝臣、鴨朝臣、伊勢大鹿首部、可治賜人止自弖奈母簡賜治賜。又、縣犬養橘夫人天皇御代重、明淨心以仕奉、皇朕御世當弖毛、無怠緩事助仕奉、加之、祖父大臣殿門荒穢事无、守川川自之事、伊蘇之美宇牟賀斯美、忘不給止自弖奈母、孫等一二治賜。又、爲大臣仕奉部留多知乃子等男、隨仕奉狀、種種治賜比川禮等母、女不治賜。是以所念、男能未父名負、女伊婆禮奴阿禮。立雙仕奉理在止奈母。父加久斯麻、於母夫部牟事不過不失、家門不荒自弖天皇仕奉止自弖奈母、汝多知乎治賜

【謹譯】また、三くに眞人まびと石川いしかわ朝臣あそみかも朝臣あそみ伊勢い せ大鹿おおかおびとどもは、おさめたまふべきひととしてなもえらびたまひおさめたまふ。またあがた犬養いぬかい橘夫人たちばなのおおとじの、天皇すめら御世み よかさねて、あかきよこころちてつかへまつり、皇朕すめらわ御世み よあたりても、おこたたゆことなくたすつかへまつり、しかのみにあらず祖父おおじ大臣おおおみ殿門とのかどあらけがことなく、まもりつつあらししこと、いそしみうむがしみ、わすれたまはずとしてなも、孫等ひこどもひとりふたりおさめたまふ。また大臣おおおみとしてつかへまつらへるおみたちの子等こどもおのこつかへまつるさましたがひて、種種くさぐさおさめたまひつれども、めのこおさめたまはず。ここおもほせば、おのこのみちちひて、めのこはいはれぬものにあれや。ならつかへまつるしことわりなりとなもおもほす。ちちがかくしまにあれとおもひて、おもぶけおしへけむことあやまたずうしなはず、家門いえかどあらさずして、天皇すめらみかどつかへまつれとしてなも、いましたちをおさめたまふ。

【字句謹解】◯三國の眞人 繼體けいたい天皇皇子おうじにまします椀子王まりこおう後裔こうえいである ◯石川の朝臣 孝元こうげん天皇皇子おうじにまします彥太忍信命ひこふとおしまことのみこと後裔こうえい ◯鴨の朝臣 大國主命おおくにぬしのみこと後裔こうえい ◯伊勢の大鹿の首 津速魂命つはやたまのみことせいそん天兒屋根命あめのこやねのみこと後裔こうえいしょうせられる。この人々は皆當時とうじ特殊な地位にあつた ◯縣の犬養の橘夫人 藤原不比等ふじわらのふひと繼室けいしつ光明こうみょう皇后こうごう御生母ごせいぼあたる人、したがつて聖武しょうむ天皇外祖母がいそぼあたることになる ◯天皇が御世重ねて 天武てんむ天皇から元正げんしょう天皇まで五せいを意味する ◯祖父大臣 藤原不比等ふじわらのふひとのこと。不比等ふ ひ と鎌足かまたりの子で、天皇外祖父がいそふあたる ◯殿門 家門かもんの意 ◯いそしみ いそしむはその功勞こうろうを認める意 ◯うむがしむ うむがしはそれをとくとして賞愛しょうあいする自動詞 ◯孫ども ここでは夫人の先夫せんぷの子の橘諸兄たちばなのもろえ橘佐爲宿禰たちばなのさいのすくね牟漏む ろ女王じょおうなどのことといはれてゐる ◯仕へまつらへる つかへまつるの延言のべことば ◯女はいはれぬ物にあれや いはれぬはしからずしてといふ否定の意、あれやはあるまいとの義、女でも父の名をはずにあるべきではない ◯立ち雙び 男も女も共にといふ程の義 ◯かくしまにあれと念ひて かくあるやうにとの希望のもとに ◯おもぶけ 熱心になること。

【大意謹述】又、ここ天皇の御言葉をつたへる。すなわち三くに眞人まびと石川朝臣あそみかも朝臣あそみ、伊勢の大鹿おおかおびとらは、當然とうぜん特別の待遇をする人々の中に選ばれる價値か ちがあるので、選び出して優待される。更に藤原不比等ふじわらのふひとしつあがた犬養いぬかい橘夫人たちばなのおおとじが、天武朝てんむちょう以來數代すうだいの間、忠義ちゅうぎに厚く、私心ししんなくつかへ、陛下の御世み よあたつても少しもおこたつたりなまけたりすることなく、常に內部から助力し、そればかりでなく、陛下の外祖父がいそふあた不比等大臣ふひとのおおおみ家門かもんみださずよく之を守つてゐたことを知られ、陛下はその功勞こうろうを認め、とくを忘れることが出來ないともうされる。その孫ども一二人ひとりふたりに特殊な地位をあたへる。又、代々よ よ大臣おおおみとして朝廷に奉仕した臣等おみなどの子の內で、男は仕官しかんの成績その他により各種の恩典おんてんさずけられるが、女は別にさうしたことはあられなかつた。このてんから考へると、男だけが父の家門かもん名譽めいよとをぐことが出來、女はそれが出來ないのであらうか。男も女も同樣どうようにさせるのこそ道理にがっすると叡慮えいりょあらせられた。父がこのやうにあつて欲しいと思つて熱心に敎育きょういくして內容をあやまることなく、家門かもんみだすことなく、朝廷に奉仕するやうにと思召おぼしめしあつて、今囘こんかい汝等なんじらをもしょうするのである。