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24-3 陸奥國より黄金を出せる時下し給へる宣命 聖武天皇(第四十五代)

陸奥むつのくにより黄金こがねいだせるときくだたまへる宣命せんみょう(第三段)(天平勝寶元年四月 續日本紀

所念、種種法中爾波、佛大御言、國家護多仁勝在聞召、⻝國天下諸國最勝王經坐、廬舍那佛作奉、天坐神、地坐祇祈禱奉、挂畏遠我皇天皇御世治〔遠天皇御世御世天皇御靈多知乎〕拜仕奉、衆人伊謝奈比仕奉心、禍息善成、危變全平等念仕奉間、衆人不成哿止疑、朕金少牟止念憂都都、三寶勝神大御言驗、天坐神、地坐神物宇豆奈比奉、佐枳波倍、又天皇御靈多知乃惠賜撫賜事依、顯示給相在自等念召、受賜歡受賜貴、進不知、退不知、夜日畏恐麻利所念、天下撫惠賜事、理坐君御代可在物、拙多豆何奈岐朕時示賜禮波、辱美奈母

【謹譯】おもほせば、種種くさぐさのりなかには、ほとけ大御言おおみことし、國家みかどまもるがめにはすぐれたりときこしめして、⻝國おすくにあめした諸國くにぐに最勝王經さいしょうおうきょうせ、廬舍那る さ なほとけつくまつるとして、あめかみくにかみ祈禱い のまつり、けまくもかしこ遠皇とおすめろぎをはじめて御世み よ御世み よ天皇すめら御靈みたまたちをおろがつかへまつり、衆人もろびとをいざなひひきゐてつかまつこころは、わざわいみてくなり、あやうかわりてまったたいらがむとおもほしてつかへまつるあいだに、衆人もろびとらじかとうたがひ、われくがねすくなけむとおもほしうれへつつあるに、三寶ほとけすぐれてあやしき大御言おおみことしるしかがふり、あめかみくにかみあいうづなひまつり、さきはへまつり、また天皇すめろぎ御靈みたまたちのめぐみたまひでたまふことりて、あらわしめたまものならしとおもほしめせば、うけたまはりよろこびうけたまはりとうとび、すすむもらに、退しりぞくもらに、夜日よるひる畏恐こしこまりおもほせば、あめしためぐみたまふことことわりきみ御代み よあたりてあるべきものを、おじなくたづがなきときあらはししめしたまへれば、かたじけななみはずかしみなもおもほす。

【字句謹解】◯種種の法 國家を守護するいろいろの道のこと ◯佛の大御言し ほとけかれるおしえが最も國家を守る上に價値か ちが多いとの意。〔註一〕參照 ◯國家 朝廷の意 ◯最勝王經 十かん三十一ぽんあつて、とう義淨ぎじょうぞうやくしょうせられてゐる ◯坐せ 置きの意、諸國にこのきょうを置く事 ◯作り奉る 鑄造ちゅうぞうたてまつること ◯天に坐す神 天神あまつかみ及びその御子孫の意、皇室の御先祖ごせんぞのこと ◯地に坐す祇 國神こくじんの意、諸臣しょしん先祖せんぞのこと ◯遠皇をはじめて この部分は本居もとおり宣長のりながくんしたがつた。宣長のりなが脫字だつじ假定かていしたものを補つて、かくくんじたらしい。遠皇とおすめろぎ皇祖こうそ皇宗こうそう ◯神しき 常人じょうにんに測ることが出來ない人間以上の力を持つほとけの意 ◯うづなひ 承諾する、天神てんじん地祇ち ぎもそれにたいして異議い ぎをとなへないこと ◯さきはへ 幸福こうふくあたへる ◯理に坐す君 道理にかなつた君主、つまり有德うとくの理想的な天皇御事おんこと ◯拙く 劣つてゐる ◯たづがなき つたなくと同意で、萬事ばんじに劣ること ◯辱なみ 天神てんじん地祇ち ぎ及びほとけに感謝する事 ◯愧かしみ 自己をかえりみてはづかしく思ふこと、それだけの價値か ちないのにかかわらず、多くの價値か ちを置かれたのを心はずかしく感ずる。

〔注意〕本勅ほんちょくの趣旨・內容はここに終つてゐるが、ほ以下、別の事を各方面にわたつて述べられてゐる部分があるけれども箇條かじょうが大分錯雜さくざつしてゐる。

【大意謹述】大佛だいぶつ鑄造ちゅうぞうと時を同じくして黄金が產出さんしゅつされた事實じじつを深く考へれば、に世に行はれてゐる各種の敎戒きょうかいうちで、ほとけかれたものが朝廷をまもる上に最もすぐれてゐると考へる。すなわち天下の諸國に最勝王經さいしょうおうきょうを置かせ、廬舍那るしゃな大佛だいぶつ鑄造ちゅうぞうまつることを天神てんじん地祇ち ぎに告げいのり、恐れ多い我が皇室の遠い御先祖ごせんぞをはじめとして、御代み よ々々の諸天皇御靈みたまここはいたてまつる次第である。それと同じく今ちんが皇后・諸王・諸臣などを引率して大佛だいぶつ御前みまえつかまつる理由は、全く天下にありとあらゆる不祥事ふしょうじが消失し、國家を危險きけんにするやうなすべてがなくなり、すべてが平和にならんことを切望するのにほかならない。朕のこの大事業にたいして、一般の人々はあるいはそれが完成しないのではないかと疑ひ、朕もまたじつをいへば、造佛ぞうぶつについて、黄金が不足であらうと內々ないない憂慮ゆうりょしてゐたところ、御佛みほとけのこの上もなくすぐれた冥助めいじょこうむり、天にまします神、地にましますかみまた朕の事業を御承認あつて幸福こうふくしゅくたまひ、又御代み よ々々の諸天皇御靈みたまも朕に恩惠おんけいれ、愛撫あいぶされる事につて、今囘こんかいの黄金產出さんしゅつを見たのであらうと考へられる。かく御佛みほとけ慈悲じ ひを受けたと知つては、この上もなく喜ばしく、神々の愛撫あいぶを受けたと知つては、この上もなく之をとうとぶ心が起り、あまりのよろこばしさに進むのも退くのも、居ても立つてもをられず、ひるも夜も神佛しんぶつの加護に感謝し、只管ひたすらおそ氣持きもちで一杯である。

 更にこの事を一歩進めて考へると、このやうな目出度め で たいことは、天下を理想的に治め、國民を十分に愛撫あいぶし、神佛しんぶつ敎戒きょうかいのままに申し分なく支配される天皇御代み よあたつてあるべきはずにもかかわらず、何一つすぐれた部分のないつたない朕の時代にそのしるしを示し給うたことは、一方に神佛しんぶつの特別な加護をかたじけなく思ふと同時に、他方、自身をかえりみてはづかしくてたまらないやうながしてならない。