24-1 陸奥國より黄金を出せる時下し給へる宣命 聖武天皇(第四十五代)

陸奥むつのくにより黄金こがねいだせるときくだたまへる宣命せんみょう(第一段)(天平勝寶元年四月 續日本紀

現御神御宇倭根子天皇詔旨宣大命、親王諸王諸臣百官人等天下公民、衆聞食宣。高天原天降坐天皇御世、中今麻弖爾天皇御世御世、天日嗣高御座、治賜惠賜來⻝國天下止奈母、神奈我良所念行佐久止宣大命、衆聞食宣。

【謹譯】現御神あきつみかみ御宇あめのしたしろしめす倭根子やまとねこ天皇すめら詔旨おおみことらまとりたまふ大命おおみことを、親王み こたち、諸王おおきみたち、諸臣お みたち、百官もものつかさひとたち、あめした公民おおみたからもろもろきこしめさへとる。高天原たかまのはら天降あ もりましし天皇すめら御世み よはじめて、なかいまいたるまでに、天皇すめら御世み よ御世み よ天日嗣あまつひつぎ高御座たかみくらにまして、おさめたまひめぐみたまひ⻝國おすくにあめしたわざとなも、かんながらもおもほしめさくとりたまふ大命おおみことを、もろもろきこしめさへとる。

【字句謹解】◯現御神と御宇しろしめす 現在まします神として、この天下を統治される天皇がの意、現御神あきつみかみに就ては〔註一〕參照 ◯倭根子天皇 當代とうだい天皇の義、ここでは聖武しょうむ天皇御事おんこと ◯天の下の公民 天下の萬民ばんみんの意、公民こうみんとある以上、當時とうじの自由民を內容としてゐる ◯高天原に天降りましし天皇 この部分は一本には「高天原たかまがはら由利」となつてゐる。「」は「より」、又は「から」の意で、る動作の出發點しゅっぱつてんをあらはすのであるから、この場合は「ゆり」の方が文法的には正しい。むしろ「ゆり」の「り」は不用で、なくとも意味が通ずると思ふ ◯天日嗣 天照大御神あまてらすおおみかみ後繼者こうけいしゃの意、天日あまつひは太陽のことで大御神おおみかみを意味する。それをいだ天皇のこと ◯高御座 天皇としての御位みくらい ◯天の下の業 神々は天上てんじょうつかさどり、天皇はその御指令によつて天下を治められること ◯神ながら 神の御意ぎょいのままにの義、この語は「孝德紀こうとくき」の大化たいか三年のくだりにあつて、「かんながらとは神道しんどうしたがふをふ。またおのずか神道しんどうあるなり」とちゅうしてある。大御神おおみかみ御意ぎょいをそのままぐことであり、我が日本思想の標語となつてゐる。〔註二〕參照。

〔註一〕現御神 天皇とは天照大御神あまてらすおおみかみ神勅しんちょくもととして、それを地上に實行じっこうするため降臨こうりんされた天皇御血統ごけっとうの意であり、はばこの世にまします神であらせられる。我が上代じょうだいに於いて天皇祭祀さいしを主とされたのは、全く神と人との兩方りょうほうの資格を持たれた結果にほかならない。天皇現御神あきつみかみしょうたてまつる根本の意義はここにある。『萬葉集まんようしゅう』にはこの語を冠辭かんじに使用して「あきかみ、わがおほきみの」と歌つてゐる。

〔注意〕本詔ほんしょうは直前の『廬舍那佛るしゃなぶつぜんもうさしめたまへる御詞みことば』と同日のもので、大體だいたい內容はそれを詳細にしたものである。『日本紀しょくにほんぎ』には「じゅ中務卿なかつかさきょう石上朝臣いそのかみあそみ乙麻呂おとまろせんす」とある。前詔ぜんしょうほとけおおせられたのにたいして、これは群臣ぐんしん・百りょう士庶ししょたまはつたのである。

【大意謹述】この世にまします神として、天下を御統治ごとうちあそばされる當代とうだい天皇大御言おおみことを、今、代辯者だいべんしゃの役をうけたまわる自分が申す事を、この場にられる親王しんのう諸臣しょしん官吏かんり一同、及び萬民ばんみんは注意して拜承はいしょうしてていただきたい。

 高天原たかまのはらから降臨こうりんあそばされた御先祖ごせんぞ天皇御代み よ以來いらい、中世の今に至るまでの各天皇天照大御神あまてらすおおみかみ御血統ごけっとうとして皇位こういかれ、萬民ばんみんを治め、恩惠おんけいれ、日本の統治を、神慮しんりょそのままに忠實ちゅうじつに行はうと考へられてをられる。その天皇大御言おおみことを、一同の方々はよくうけたまわられるやう改めて申し上げる。