22-3 廬舍那佛鑄造に關して下し給へる詔 聖武天皇(第四十五代)

廬舍那佛るしゃなぶつ鑄造ちゅうぞうかんしてくだたまへるみことのり(第三段)(天平十五年二月 續日本紀

夫有天下之富者朕也。有天下之勢者朕也。以此富勢、造此尊像、事之易成、心之難至。但恐徒有勞人、無能感聖、或生誹謗、反墮罪辜。

【謹譯】天下てんかとみゆうするものちんなり。天下てんかいきおいゆうするものちんなり。とみいきおいとをもって、尊像そんぞうつくること、ことやすくして、こころいたがたし。おそらくはいたずらにひとろうするありて、せいかんずるなく、あるい誹謗ひぼうしょうじ、かえっ罪辜ざいこちんことを。

【字句謹解】◯天下の富 これは天下中てんかじゅうにある最も大きなとみかいさなくてはならない ◯天下の勢 天下中の全部の勢威せいい ◯心至り難し 如何い かに大きなほとけでもることは容易であるが、さて、ほとけの前に一てんの私心もなく拜禮はいれいするだけの心とはなり難いとの意 ◯聖を感ずるなく 聖業せいぎょうの意義を知ることがなく、佛意ぶついはないこと ◯誹謗を生じ 諸方面から生ずるいろいろの非難 ◯罪辜に墮ちんこと いたずらに形式だけ大きくして、その內容がないために、ほとけを心からたっとぶ見地から見れば罪惡ざいあくとなる意。

【大意謹述】思ふに、天下中で第一のとみの所有者はちんである。又、天下に於いて最も大きな權勢けんせいを所有してゐるものも朕である。朕の有する天下第一のとみ、天下無比の權勢けんせいを共に十分利用すれば、如何い かに大規模なこの像でも、鑄造ちゅうぞう何等なんらの困難もないのだが、はたしてほとけの前に一てんの私心もなく拜禮はいれい出來るかといふと、これにはとみ權勢けんせいとか少しの助けにもならないので、なかなか朕には至難のわざなのである。ゆえに朕はただこの事業がいたずらに多數たすう勞力ろうりょくを費すのみに終り、聖なる佛意ぶついはずして、あるいは諸方面から非難のこえあがり、朕及び衆生しゅじょうを救ふ目的とは反對はんたいに、すべてを罪におとすことになりはしないかといふ事を切に恐れてゐる。

【備考】當時とうじ、朝廷のとみいきおいとは非常にさかんで、大佛だいぶつ鑄造ちゅうぞうのことも、民間の力を借りないで出來たのである。けれども聖武しょうむ天皇造佛ぞうぶつ功德くどくを天下に及ぼし、つ彼等の誓願せいがんをも平等にれようといふ寬大かんだい思召おぼしめしいだかれた。だから、國民の協力にたれ、成るべくただ多數たすう勞力ろうりょくを費したのみだといふやうな非難をいだかぬやう、特に心せられたのである。