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20 異端妖術を禁ずるの勅 聖武天皇(第四十五代)

異端いたん妖術ようじゅつきんずるのみことのり天平元年四月 續日本紀

內外文武百官、及天下百姓、有學習異端、蓄積幻術、厭魅咒咀、害傷百物者、首斬從流。如有停住山林、佯道佛法、自作敎化、傳習授業、封印書符、合藥造毒、萬方作恠、違犯勅禁者、罪亦如此。其妖訛書者、勅出以後五十日內首訖。若有限內不首、後被糺告者、不問首從、皆咸配流。其糺告人、賞絹三十疋、便徵罪家。

【謹譯】內外ないがい文武ぶんぶかんおよ天下てんかの百せい異端いたん學習がくしゅうし、幻術げんじゅつ蓄積ちくせきし、厭魅ようみ咒咀じゅそ、百ぶつ害傷がいしょうするものあらば、しゅざんし、じゅうせん。山林さんりん停住ていじゅうし、いつはりて佛法ぶっぽうひ、みずか敎化きょうかし、授業じゅぎょう傳習でんしゅうし、書符しょふ封印ふういんして、くすりあわせてどくつくり、萬方まんぽうかいし、勅禁ちょっきん違犯いはんせんものらば、つみまたかくごとし。訛書かしょまどはされしものは、ちょくでて以後い ご五十にちないしゅおわれ。限內げんないしゅせず、のち糺告きゅうこくこうむものあらば、首從しゅじゅうはず、皆咸みなみな配流はいるせん。糺告人きゅうこくにんには、きぬ三十ぴきしょうし、便すなわ罪家ざいけちょうせん。

【字句謹解】◯內外 朝廷の內外のこと ◯百姓 一般の國民 ◯異端 聖人の敎戒きょうかい以外のものを指す、ここでは主として道敎どうきょうのこと ◯幻術 妖術ようじゅつのこと、人々を迷はす不可思議の奇術 ◯蓄積 物を多く所有する意 ◯厭魅 不思議な妖術で形容も出來ない怪物を出現させて人々の心をおどす ようは人の心をおさへおびやかすこと は山林の異氣い きから生ずる怪物 ◯咒咀 人をのろふこと ◯百物を害傷する者 萬物ばんぶつの本性をそこなひ、傷つけるもの ◯首は斬 首謀者は死刑 ◯從は流 一味の者は流罪るざいとは邊卑へんぴな土地、あるいは島などに一定期間流すこと ◯停住 長い間住む ◯佛法を道ひ 佛法ぶっぽうだと人々をあざむいて異端いたんおしへる ◯書符に封印して 所有の書物ふうをして人々に見せない義 ◯藥に合せて毒を造り 佛敎ぶっきょうだと人々に信ぜしめて、そのじつ人心じんしんを迷はす內容をる ◯萬方に恠を作し あやなことをして諸方面を害する、かいかいと同じ ◯訛書 人をまどはす書物 ◯首し訖れ 自首していでよとの意 ◯限內 期限內、すなわちょくが出てから五十日以內 ◯糺告を被る きゅうきゅうと同じ、事實じじつを調査して告げ知らせること ◯皆咸配流せん 一家の全部を流罪にしょするであらう ◯罪家を徵せん 罪人の家を召上げこらすであらう。

〔注意〕當時とうじ悪才あくさいけた者が、右のやうな行爲こういを常に行つたので、このちょくはっせられたのちも、この種の行爲こういあとたなかつた事實じじつは、その翌年に『賊徒ぞくと妖言ようげん及び禽獸きんじゅうとらふることを嚴禁げんきんするのみことのり』(天平二年八月、續日本紀)がはっせられてゐるのでも判明しよう。

【大意謹述】朝廷の內外に奉仕するすべての文官ぶんかん武官ぶかん、及び天下一般の國民中に、我が神道しんどう及び儒敎じゅきょうおもむきに合はない學問がくもんを習ひ修め、怪しげな妖術を振𢌞ふりまわし、不思議な怪物を見せたりして良民の心をおどろかしたり、人々を呪つたりするものがある。それによつて人々の本性をそこなひ、傷つける者があつたとすれば、首謀者は死刑、一味の者共ものども流刑るけいしょする。し又、山林の間に長く住み、佛法ぶっぽうを修業したとつて人々を胡魔化ご ま かし、勝手なせつを述べたり、そのせつを書いた書籍に封をして人々には示さず、表面、佛法ぶっぽうに似せてそのじつ、全くことなつたおもむきや、國民を迷はすことをおしへるものがゐる。それにより各方面に害をあたへ、ちんの禁じたことを犯す者があれば、その罪は前條ぜんじょうのものと等しい。異端いたんの人々が持つあや書物あざむき迷はされた者は、本勅ほんちょく發布はっぷ後五十日間以內に自首していづれば、今囘こんかいだけはその罪をゆるすであらう。しもこの期間內に自首せず、その後に至つて、この事實じじつかんに告げられた者は、首謀者であるか一味にすぎないかを問題とせず、すべ一家共に流罪にしょする。そしてそれを官に告げ知らせた者には、絹三十ぴきを賞品としてあたへる。つ罪人を出した家はこれを召上げ、こらすこととするであらう。

【備考】しん佛敎ぶっきょう精神せいしんが、まだきわたらないうちに、その隆盛につけ込んで佛敎ぶっきょうを利用し、いろいろのあやなことをしたものが、相當そうとう多かつたのは、本勅ほんちょくにより、明白である。本勅ほんちょくはっせられた翌年、京都市外の山野さんやで人を集めて怪しいことを放言し、これを迷はせたものが非常に多かつたこと、安藝あ き周芳す ほ地方に吉凶・禍福かふくくものが跋扈ばっこしたことなどがあつた。かうした迷信めいしん分子ぶんしが、しん大乘だいじょう佛敎ぶっきょう精神せいしん發揚はつようを著しく阻害そがいしたことは嘆惜たんせきに堪へない。中には、老莊ろうそう末派まっぱたる道敎どうきょうこんじてゐたことと思はれる。