14-3 數寺を併兼して一區に合成するの詔 元正天皇(第四十四代)

數寺すうじ併兼へいけんして一合成ごうせいするのみことのり(第三段)(寶龜二年五月 續日本紀

又聞、諸國寺家、堂塔雖成、僧尼莫住、禮佛無聞。檀越子孫、惣攝田畝、專養妻子、不供衆僧。因作諍訟諠擾國郡。自今以後、嚴加禁斷、其所有財物田園、竝須國師衆僧及國司檀越等相對檢校、分明案記、充用之日、共判出付。不得依舊檀越等專制。

【謹譯】またく、諸國しょこく寺家じ か堂塔どうとうれりといえども、僧尼そうにむなく、ほとけらいすることをくなし。檀越だんのち子孫しそん田畝でんぽおさめ、もっぱ妻子さいしやしなひて衆僧しゅうそうきょうせず。つて諍訟そうしょうをなして、國郡こくぐん諠擾せんじょうすと。自今じこん以後い ごおごそかに禁斷きんだんくわへ、ゆうするところ財物ざいぶつ田園でんえんならびすべから國師こくし衆僧しゅうそうおよ國司こくし檀越だんのち相對あいたいして檢校けんこうし、分明ぶんみょう案記あんきして、充用じゅうようともはんしていだすべし。きゅうつて檀越だんのちなど專制せんせいすることをず。

【字句謹解】◯諍訟をなして 訴訟そしょうをする意 ◯諠擾 騒がしくする ◯禁斷を加へ その事をかたく禁ずる ◯田園 田畠でんばたの意 ◯檢校 調査する ◯分明に案記 明瞭めいりょう記錄きろくする ◯充用の日 その仕事が出來上つた日。

【大意謹述】又、ちんの耳に入つたところにれば、諸國にある寺院は、佛經ぶっきょうぞうする塔、佛像ぶつぞうを安置する堂は出來てゐるのは少くないが、僧尼そうにの住む場所もなく、ほとけ崇拜すうはいした噂も聞かないのがすこぶる多い。更に信者の代表者として、檀那だんなの子孫が、寺院の所有する田地でんちを皆手に入れて、その收入しゅうにゅうで妻子を養ひ、僧侶そうりょには少しもあたへず、そのために訴訟そしょう沙汰ざ たとなり、國郡こくぐんを騒がせる例が多いともいふ。これは明らかに違法であるから、今後、嚴重げんじゅうに禁止し、寺院の所有する土地財物は、すべ國師こくし僧侶そうりょ郡司ぐんじ・信者の代表者などの出席のもとに調査し、申し分なく明らかに記錄きろくして、それが終つた時、皆がいんして朝廷にまで送るやうにする。くすれば舊習きゅうしゅう通り檀那だんななどが寺院の勢力專斷せんだんすることは出來ないであらう。

【備考】久米く め邦武くにたけ氏は、當時とうじの事情に言及して、「これ諸寺に資財帳しざいちょうが出來た原由げんゆうであらう。しか寺僧じそう王臣おうしん結託けったくして田園・土地を占有することは、これより年を追うて、むしはなはだしかつた。佛法ぶっぽう興隆こうりゅうといふものの、そのじつ、競うて土地占有につとめたにほかならぬといふ有樣ありさだつた」といふ意を率直に述べてゐる。かうした事例は、すで支那し なにも多く、却々なかなかこれを防ぐことが、困難とされたのである。