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14-1 數寺を併兼して一區に合成するの詔 元正天皇(第四十四代)

數寺すうじ併兼へいけんして一合成ごうせいするのみことのり(寶龜二年五月 續日本紀

崇飾法藏、肅敬爲本、營修佛廟、淸淨爲先。今聞、諸國寺家、多不如法。或草堂始闢、爭求額題、幢幡僅施、卽訴田畝、或房舍不脩、馬牛群聚、門庭荒廢、荆棘彌生、遂使無上尊像、永蒙塵穢、甚深法藏不免風雨。多歷年代、絕無構成。於事斟量、極乖崇敬。

【謹譯】法藏ほうぞう崇飾すうしょくするは、肅敬しゅくけいもととなす、佛廟ぶつびょう營修えいしゅうするは、淸淨せいじょうさきとなす。いまく、諸國しょこく寺家じ かおおほうごとくならず。あるい草堂そうどうはじめてひらくや、額題がくだいあらそもとめ、幢幡どうばんわずかほどこして、すなわ田畝でんぽうったへ、あるい房舍ぼうしゃおさめずして、馬牛ばぎゅう群聚ぐんしゅうし、門庭もんてい荒廢こうはい荆棘けいきょく彌生びせいし、つい無上むじょう尊像そんぞうをしてなが塵穢じんえこうむり、甚深じんじん法藏ほうぞうをして風雨ふううまぬがれざらしむ。おお年代ねんだいて、えて構成こうせいすることなしと。こといて斟量しんりょうするに、きわめて崇敬すうけいそむけり。

【字句謹解】◯法藏 ほうほとけ敎戒きょうかいぞう含藏がんぞうの義、佛敎ぶっきょう經典きょうてんを意味す。ここでは經典きょうてんなどをぞうした場所のこと ◯崇飾 立派に飾り立てて崇拜すうはいする ◯肅敬を本となす 態度をつつしんで心からけいするのを根本とする意 ◯草堂 かやぶきの粗末な家の意 ◯額題を爭ひ求め 額題がくだいは寺院ののきにかけるがくのことで、これを求めることは形式だけ大きい名を得ようとする意 ◯幢幡 佛堂ぶつどうに飾る旗 ◯田畝を訴へ 所有の土地が少いことをかみたいして不平をいふ ◯房舍 僧侶そうりょの住む家 ◯門庭荒廢 寺院の門や庭が手入れをしないために荒れはてる ◯荆棘彌生し いばらが隙間なく生えてゐる ◯無上の尊像 この上もなく尊い佛像ぶつぞうのこと ◯塵穢を蒙り ちりほこりけがれる ◯斟量 事を考へる。

【大意謹述】佛典ぶってんぞうした場所をあがんで之を立派にするのは、佛敎ぶっきょうをおろそかにせず、心から信ずる根本の道である。佛像ぶつぞうを置く場所を常に破損しないやう修繕するのは、淸淨しょうじょうを保つ道である。しかるに噂によれば、諸國に散在する寺院中では、この規定を守る者がほとんどないと言はれてゐる。その人々は、粗末な寺を建てて名目だけを大きくしたがり、あるいわずかに佛像ぶつぞうを安置しただけで所有の土地の多少を常にかみに訴へ、僧侶そうりょの住む場所も十分に造られないで馬や牛を多く飼育し、門や庭には手入れしないで荒れるに任せてゐる。それゆえ、いばらや、雜草ざっそうが隙間なく生え、この上もなく尊い佛像ぶつぞうを永い間ちりほこりと共に置き、經文きょうもんを入れるくらには、雨露がるといつた工合で、すべて驚く程の年代をても、少しも修繕又は改築しないとのことである。これらの諸點しょてんから考へると、佛敎ぶっきょうしん崇拜すうはいする心と全然反對はんたいだといつても差支さしつかえない。これでは崇佛すうぶつ趣意しゅいにそむくことがはなはだしい。

【備考】以上のみことのりによつても、當時とうじ僧侶そうりょの腐敗程度がわかる。和銅わどう五年、近江守おうみのかみとなつた藤原武智麻呂ふじわらのむちまろは、佛敎ぶっきょう篤信者とくしんじゃだつたが、近江おうみ地方の樣子ようすを見て、佛敎ぶっきょうほうずる僧侶そうりょらの墮落だらくなげいた。よつて上書じょうしょして「かうした樣子ようすは、ひとり、近江おうみのみにとどまらず、他國同樣どうようと存じます。願くば、諸國に命令を下され、一切の弊害へいがいを除き、佛敎ぶっきょう眞精神しんせいしん發揚はつよういたしたく存じます」とつた。その結果、ここ奉掲ほうけいする勅語ちょくごを下されたのである。