8-3 僧尼に下し給へる詔 孝德天皇(第三十六代)

僧尼そうにくだたまへるみことのり(第三段)(大化元年八月 日本書紀

此十師等宜能敎導衆僧脩行釋敎、要使如法。凡自天皇至于伴造所造之寺、不能營者、朕皆助作。今拜寺司等與寺主、巡行諸寺、驗僧尼奴婢田畝之實、而盡顯奏。

【謹譯】の十よろしく衆僧しゅうそう敎導きょうどう釋敎しゃっきょう脩行しゅうぎょうすること、かならほうごとくせしむべし。およ天皇すめらみことより伴造とものみやつこいたるまでつくところてらいとなむことあたはざるものは、ちんみなたすつくらむ。いま寺司てらのつかさ寺主じしゅとをはいしたるは、諸寺しょじ巡行じゅんこうし、僧尼そうに奴婢ぬ ひ田畝でんぽじつけんして、ことごとあらわもうせよ。

【字句謹解】◯釋敎を脩行する ほとけおしえをよく守つて行爲こういつつしむ ◯ 定められた戒律かいりつのこと ◯伴造 ともは部類の意で、我が上代じょうだいに各部のちょうとして其の部を統轄とうかつした世襲せしゅうの職のこと ◯寺司 寺の役人、これは十を意味する ◯寺主 これは前文にある通り惠妙えみょう法師ほうしを指したものであらう ◯巡行 順序をつけて視察しさつして歩く事。はたしてその人々が本當ほんとうに寺をいとなむだけの經濟力けいざいりょくがあるかいなかを判別させる意である ◯驗して 調査する ◯顯し奏せよ 調査の結果を明瞭めいりょうに申し上げよ。

〔注意〕このみことのりの結果、調査の完成、及び寺院建立こんりゅうの諸事務を取扱ふための役人が必要となつた。ゆえに『孝德紀こうとくき』には來目臣くめのおみ三輪色夫君みわのしこふのきみ額田部連甥ぬがたべのむらじおい法頭ほうとうに命じてゐる。

【大意謹述】今任命した十らは、萬事ばんじ遺漏いろうなく、僧侶そうりょどもを正しい方向におしへ導き、戒律かいりつれないやうに佛道ぶつどうの修業を第一とさせなければならない。又、すべ天皇以下諸部のおさの身分に至るまで、建立こんりゅうした寺が維持出來ず、あるいは作ることが出來ない者があれば、ちんはそれらに經濟けいざい方面の援助をおしまず、完成させるであらう。今寺役人れたやくにん及び寺主じしゅの地位をはいしたものは、ただちに諸寺を視察しさつして𢌞まわり、僧尼そうにすう・寺にぞくする男女の雜役夫ざつえきふ田畝でんぽの多少などを調査し、事實じじつ通りの結果を報告するやうに致すがよい。

【備考】『書紀しょき』によると、孝德こうとく天皇は、「佛敎ぶっきょうとうとみ、神道しんどうあなづりたまふ」として、その一例に生國魂いくくにたま社內しゃないの樹をることを何とも思はれなかつたとしてゐる。左樣そ うしたことはもとより、孝德こうとく天皇の偉大を減ずる所以ゆえんではないが、また公平に見て、あまりに佛敎ぶっきょうを重んじ過ぎられたてんあるを遺憾いかんに思ふのは、ひとり『書紀しょき』の著者ばかりではあるまい。天皇英明えいめいを以てして、佛敎ぶっきょう竝行的へいこうてきに日本固有の神道しんどう宣揚せんようされたならば、天皇の偉大さは一段と輝いたであらうと思ふ。