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69 ロンドン海軍會議全權ニ賜リシ勅語 今上陛下(第百二十四代)

大日本詔勅謹解3 軍事外交篇

ロンドン海軍かいぐん會議かいぎ全權ぜんけんたまわリシ勅語ちょくご(昭和五年六月二十日 官報

【謹譯】卿等けいらさき全權ぜんけん委員いいんトシテ、倫敦ロンドン海軍かいぐん會議かいぎれっシ、いまここ復命ふくめいク。累月るいげつあいだ愼重しんちょうはかリ、精勵せいれいことしたがヒ、もっ任務にんむヘタリ。ちんふかろうよみス。

【字句謹解】◯卿等 ロンドン軍縮會議かいぎに日本首席しゅせき全權ぜんけん委員として參加さんかした若槻わかつき禮次郞れいじろうその他のこと、現民政黨みんせいとう總裁そうさいである若槻わかつき禮次郞れいじろうはこのこう男爵だんしゃくを授けられた ◯倫敦海軍會議 一九三〇年(昭和五年)にロンドンで行はれた海軍巡洋艦・潜水艦・補助艦の制限にたいする日本・アメリカ・イギリス・フランス・イタリイの五こく會議かいぎのこと ◯復命 結果の報告 ◯累月ノ間 ロンドン會議かいぎはこの年の一月の第三週初頭から四月二十二日までつづいた。ゆえに月を重ねてとの御詞おことばがあつた ◯愼重 態度の上でよく前後を考へて善處ぜんしょすること ◯精勵 事務に懸命となつて勤める。

【大意謹述】卿等けいらさきに日本政府の全權ぜんけん委員として、ロンドンに行はれた海軍軍縮會議かいぎに列席した。今ちん汝等なんじら歸朝きちょうと共にその經過へいか報告をくことが出來た。それにつて、すうヶ月間萬事ばんじに態度をつつしみ、十分に我國わがくにの方針を守り、せい出して事務を處理しょりし、責任をはたした骨折ほねおりたい滿足まんぞくの意を表する。

【備考】ロンドン軍縮會議かいぎは、現在一部の人々につて國辱こくじょく會議かいぎといはれ、日本を驚倒きょうとうさせた五・一五事件にも關係かんけいが深いので、我が國民たる者は正しい知識の上に立つ正しい判斷はんだんを養はなければならない。そしてこの說明せつめいは、その前行ぜんこう會議かいぎであるワシントン及びジエネエブの軍縮會議かいぎから及ぼすのが最も適當てきとうであらう。

 世界大戰たいせんが終り、國際こくさい聯盟れんめいが成立すると、世人せじん戰爭せんそう慘禍さんかたいする戰慄せんりつと軍備の擴張かくちょう、特に海軍の充實じゅうじつともなふ過大な軍費とに苦しんで、アメリカ大統領ハアデイングの主張をれ、軍備制限問題・太平洋及び極東きょくとう問題を審議する目的で、一九二一年(大正十年)十一月十一日からワシントンに於いて五こく會議かいぎを行つた。この會議かいぎに出席した各國首席しゅせき全權ぜんけんは日本では海軍大臣加藤かとう友三郞ともさぶろう、アメリカでは國務卿こくむきょうヒユウズ、イギリスでは樞密院すうみついん議長バルフオア、フランスでは首相ブリアン、イタリイでは前藏相ぞうしょうのシヤンツエルであつた。そしてこの會議かいぎの結果

(一)過去二十年間守られてゐた日英にちえい同盟どうめいはいされた、(二)支那し なに於ける我が特殊權利けんりを認めた所謂いわゆる石井―ランシング協定がはいせられた、(三)山東さんとう問題で多大の讓歩じょうほせざるを得なかつた、(四)主力艦・航空母艦に於いて五・五・三の比例を押しつけられた、

ことになり、我々にとつては遺憾いかんなところがあつた。就中なかんずく五・五・三の比例とは次の表で明らかにされる如く海軍國の本質をも損したもので、我が國では勿論もちろん、各國共に補助艦の製造に全力を致したのはいふまでもない。

主力艦保有量〕 日本/315,000 イギリス/525,000 アメリカ/525,000 フランス/175,000 イタリイ/175,000〔單艦噸數〕最大限35,000トンを超ゆるを得ず〔備砲〕口徑こうけい十六インチを超ゆるを得ず

航空母艦保有量〕 日本/81,000 イギリス/135,000 アメリカ/135,000 フランス/60,000 イタリイ/60,000〔單艦噸數〕27,000噸を超ゆるを得ず〔備砲〕口徑八インチを超ゆるを得ず

その他の補助艦保有量〕制限なし〔單艦噸數〕10,000噸を超ゆるを得ず〔備砲〕口徑八インチを超ゆるを得ず

要塞及び根據地こんきょち 太平洋上島嶼とうしょ現狀げんじょう維持(フランス・イタリイは關係なし)

その後各國の主力艦以外の建造は時と共に競爭きょうそうの度を加へ、ワシントン會議かいぎの目標である軍事費負擔ふたん輕減けいげん效果こうかも失はれて來たので、ワシントン會議かいぎ主唱者しゅしょうしゃであつたアメリカ政府は、一九二七年三月一日からジエネエブで開かれる第三かい軍縮準備委員かいとして五こくの補助艦海軍縮小協定を致す策を執つた。日本及びイギリスはこれに賛成し、フランス・イタリイは反對はんたいしたので、アメリカはギブソン大使、イギリスはブリツチマン海相かいしょう、日本は當時とうじ齋藤さいとう朝鮮總督そうとく首席しゅせき全權ぜんけんとし、他の二國はオブザアヴアを派遣した。このジエネエブ會議かいぎは、日本が補助艦に於ける五・五・三を受諾しないこと、イギリスがアメリカと同率をがえんぜなかつたことなどから決裂し、イギリスとアメリカとの間はやや惡化あっかしたが、一九二八年の十五ヶ國不戰ふせん條約じょうやくつていよいよ軍縮會議かいぎを開く豫定よていがつき、今度はイギリスが主唱者しゅしょうしゃとなり、一九三一年(昭和五年)一月からロンドンに於いて補助艦の縮小問題がせられたのである。首席しゅせき全權ぜんけんは日本は若槻わかつき禮次郞れいじろう、イギリスは首相マクドナルド、アメリカは國務卿こくむきょうスチムスン、フランスは首相タルヂユ、イタリイは外相グランヂであつた。

 日本の軍備にたいする根本方針はすで明治天皇以來の詔勅しょうちょくはいせられる如く、確固たる東洋平和の精神せいしんに立つ日本國の獨立どくりつ安寧あんねいを主としたもので、具體的ぐたいてきにいへば、左の如くである。

(一)世界最大の海軍國が極東きょくとうの海面に派遣出來る海軍力にこうするだけの用意。(二)日本民族存立そんりつに必要な物資を確保するだけの用意。今囘こんかいのロンドン會議かいぎの根本もこの基礎上から立てられた。すなわ

(一)八インチほう搭載とうさいする大型巡洋艦保有量は、アメリカの七割を確保すること。(二)潜水艦の全廢ぜんぱいあるいは削減に反對はんたいし、現有力である七八、五〇〇トンを維持すること。(三)以上の二つを條件じょうけんとして補助艦の總括的そうかつてき噸數トンすう對米たいべい七割を主張すること。

がその三大原則で、會議かいぎの結果は

(一)大型巡洋艦は、日本の七割主張とアメリカの六割主張との間をとつて、一九三六年末までは完成せるものは七割となるが、その代りにアメリカは、なほ三隻だけ完成せしめない範圍はんいで起工出來る。(二)潜水艦は日本の現有勢力七八、五〇〇トンから、五二、〇〇〇トンに低下し、日米對等たいとうとなつた。(三)補助艦總括そうかつではアメリカの五二六、〇〇〇トンたいする日本の三六七、五〇〇トンで七割近くの比率を得た。

事となつた。同時に主力艦についても

(一)海軍休息を一九三六年まで延長すること。(二)隻數せきすう減少は日本一隻、イギリス五隻、アメリカ三隻の割合で主力艦を廢棄はいきし、日本九隻、英米各十五隻とすること。

が決定され、四月二十二日にロンドン條約じょうやくは調印された。

 我國わがくにはワシントン會議かいぎに於いて五・五・三の主力艦と決定し、ロンドン會議かいぎに於いて一〇・一〇・七弱の補助艦を持つことになつた。し各國の戰雲せんうんすべて一掃され、世界から戰爭せんそうの跡をてば、あるいはこの比率で國民も滿足まんぞく出來よう。第一軍縮そのものが不要となる。最近の國際間の微妙な關係かんけいは、しかし何時びい つ第二の世界大戰たいせん招來しょうらいしないとも限らない。特に満洲まんしゅう問題発生以後の日本、國際こくさい聯盟れんめい脫退だったい以後の日本、米國のロシヤ承認以後の日本は、一九三五年に事實上じじつじょう聯盟れんめいの義務から逃れる日、一九三六年の軍縮會議かいぎの日に國際的に孤立するかも知れない、満洲まんしゅう問題で主としてアメリカの、ダンピング問題で主としてイギリスの、滿洲まんしゅう國境こっきょう問題・赤化せっか問題・漁業問題で主としてロシヤの考へと衝突し易い傾向がある。更に南方の生命線マアシヤル・カロリイナ問題では聯盟れんめい加入國の干渉かんしょうを受ける憂ひなしとしない。が、一九三六年、日本は當然とうぜん主力艦の英米等率とうりつを主張するであらう。主力艦の五・五・三の承認は、補助艦の一〇・一〇・一〇を前提としたのに、ロンドン會議かいぎでは一〇・一〇・七弱となり、島國とうごく日本にとつて絕對ぜったい必要な潜水艦の保有量までも低下された。一九三六年の重大性はここにあり、ロンドン會議かいぎの直接責任者たる若槻わかつきだんを非難するこえもこの見地から出た。ロンドン會議かいぎの重要性をかく考へると、むしろ今日以後に影響するてんが大きいといはなければならない。

 當時とうじ今上きんじょう陛下が、ロンドン條約じょうやく批准ひじゅんあらせられたについて、事情通じじょうつうのいふ所によると、一に世界平和を最も重んぜられた御精神ごせいしんによる。それは、日本建國けんこく以來の大方針で、いつの世にもかわらぬ。それからロンドン條約じょうやく暫定ざんてい的で、近く改變かいへんせらるべきことが明かであるといふこともまた、陛下においてりょうとせられ、萬事ばんじ圓滿えんまん謙讓けんじょうを旨とされたのであらうとおそなが拜察はいさつする。