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67-2 世界大戰ニ就テ平和克復ノ大詔 大正天皇(第百二十三代)

世界せかい大戰たいせんつい平和へいわ克復こくふく大詔たいしょう(第二段)(大正九年一月十日 官報

【謹譯】いま紛擾ふんじょうきょくおさメ、安寧あんねい將來しょうらいルハ、もとヨリ諸友邦しょゆうほう協同きょうどう燮理しょうりタサルヘカラス。さき講和こうわ會議かいぎ佛國ふつこくひらカルルヤ、ちんまた全權ぜんけん委員いいん簡派かんぱシ、商議しょうぎさんセシメシニ、平和へいわ永遠えいえん協定きょうていあらたリ、國際こくさい聯盟れんめい規模き ぼここツ。ちん中心ちゅうしんじつ欣幸きんこうトスルところナルトともニ、また今後こんご國家こっか負荷ふ か重大じゅうだいナルヲかんセスンハアラサルナリ。

【字句謹解】◯紛擾ノ局ヲ收メ 大混亂だいこんらんの事態を整理する ◯安寧ヲ將來ニ視ル 安寧あんねいとは國が平和となり國民の心配がなくなる事、これが今後保證ほしょうされる意 ◯燮理 『書經しょきょう』に「陰陽いんよう燮理しょうりす」とあるのから採つたもので、やはらげて過不及かふきゅうのないやうにする意味 ◯講和會議ノ佛國ニ開カルルヤ フランスのパリイにあるベルサイユ宮殿で開かれた講和こうわ會議かいぎのこと。〔註一〕參照 ◯全權委員 日本のすべての權利けんりを代表する人々。その首席しゅせき西園寺さいおんじこうであつた ◯簡派 派遣すること ◯商議 議論の意、各種の題目について各國代表間で論じ合ふこと ◯平和永遠ノ協定 將來しょうらい再び平和をみだ不祥事ふしょうじを起さないやうにする目的のもとに各國が一致した條項じょうこうのこと。〔註二〕參照 ◯國際聯盟ノ規模 國際こくさい聯盟れんめいに就いては『聯盟れんめい脫退だったいみことのり』に詳述しょうじゅつした。規模は基礎の意で、この會議かいぎあたりアメリカ大統領ウイルソンが提出したものであつた。〔註三〕參照 ◯中心 心中しんちゅうと同じ ◯欣幸 事物の成立を喜ぶ意 ◯國家負荷ノ重大 國家として負ふ責任の重く大きなこと。

〔註一〕講和會議 その參加國さんかこく及び民族名はしもの如くであつた。北アメリカ合衆國・フランス・イギリス・イタリイ・日本(以上五大國)オウストラリヤ・ベルギイ・ギリシヤ・ボリビヤ・ハイチ・ブラジル・ヘジヤス・カナダ・支那し な印度いんど・キユバ・チエツクスロワキヤ・リペリヤ・エクハドル・ニウジイランド・ニウフアンドランド・ルウマニヤ・パナマ・セルビヤ・ペルウ・シヤム・ポオランド・南アフリカポルトガル・ウルグワイ(以上小國)アイランド群島・デンマルク・アルバニヤ・アルメニヤ・モンテネグロ・ダルマチヤ・ペルシヤ及びユダヤ人(以上無權國)そして出席した著名な人々としてはウイルソン・ボアンカレイ・ランシング・クレマンソオ・ロイドジヨオジ・バルフオア・オルランド・ソニノ・西園寺さいおんじ公望きみもち牧野まきの伸顯のぶあきなどが記憶される。この會議かいぎはドイツとの講和條件よりも國際こくさい聯盟れんめい案の提出で混亂こんらんし、我が國としては山東さんとう問題で支那し なおおいに議論した。一九一九年一月十八日に始まり、同六月二十八日にドイツとの調印、九月十日にオウストリヤとの調印を終へた。

〔註二〕對獨講和條件 その要領を左に示す。

(一)ドイツはアルサス・ロオトリンゲン兩州りょうしゅうをフランスに返還する。(二)ドイツはザアル河流域の炭坑採掘けんをフランスに讓渡じょうとする。(但し十五年後は住民の投票によつて去就を決する。)(三)ドイツはその西都せいとをベルギイにあたへる。(四)ドイツはルクセンブルグ公國の獨立どくりつを認める。(五)ドイツはチエツクスロワキヤの獨立どくりつを承認し、シレシヤ州の大部だいぶをこのために放棄する。(六)ドイツはロシヤ・トルコ・バルカン半島諸國の旣得きとく權利けんり聯合國れんごうこく側にまかす。(七)ドイツは海外植民地及び租界そかいたいするすべての權利けんり聯合れんごう諸國のために放棄する。(八)ドイツは聯合れんごう諸國の軍費ぐんぴ及び公私の損害をすべ年賦ねんぷ賠償ばいしょうする。(九)ドイツは常備の陸軍兵員を十まん人以內、海軍兵員を一萬五千人以內に限る。(十)ドイツはライン右岸六十キロメエトル以西に要塞を維持すること、新築することを得ず。

 そして現在のヒツトラア・パアペン內閣が日本にいで國際こくさい聯盟れんめい脫退だったいしたのは、じつにこれらの條約の結果であつた。なほ、我が國では聯盟れんめいために努力したが、人種平等主義を聯盟れんめい規約きやく條文じょうぶん中に明記する事に就ては失敗した。最も重大であつた膠州灣こうしゅうわん還附かんぷ問題では、支那し な反對はんたいを押し切つて山東さんとうは一時日本の領有にし、次のワシントン會議かいぎでマアシヤル・カロリイナ諸群島を管理する事に決した。

〔註三〕聯盟規約 當時とうじまとめられた聯盟れんめい規約きやくは前文二十六箇條かじょうから成立するが、その要旨は

(一)國際こくさい聯盟れんめいは聯盟議會ぎかい・聯盟評議會ひょうぎかい・聯盟常置委員かい・聯盟事務局より成る。(事務局の位置は評議會の多數決によつて定める。)(二)國際こくさい公法こうほうを制定し、國際こくさい仲裁ちゅうさい裁判所を常設すること。(三)聯盟れんめい列國れっこくの軍備を制限すること。(四)毎年まいねん國際こくさい勞働ろうどう會議かいぎを開くこと。

 となり、事務局はづスイス國ジエネエブ市に設置し、ジエイムス・ドラモンド(Sir James Eric Drummond)を事務總長そうちょう推擧すいきょし、第一かい國際こくさい勞働ろうどう會議かいぎを一九一九年十月に北アメリカ合衆國のワシントンで開くことに決した。所謂いわゆるワシントン會議かいぎとして知られてゐるのは、これである。

【大意謹述】今、この前後五年にわたつた大混亂だいこんらん後の事態を整理し、將來しょうらい國家こっか平穩へいおん・國民安堵あんどの基礎を決定するのは、勿論もちろん一國の力で出來るわけのものではなく、我國わがくにと友情關係かんけいにある諸國と力を合せて事をまとめなければならない。先日フランスで講和こうわ會議かいぎが開かれた時、ちんも諸國と同樣どうように我が全權ぜんけん委員を派遣して協定に參加さんかせしめたところ、世界の末長い平和にかんする規約があらたに定められ、國際こくさい聯盟れんめいの根本がここに固められた。朕はこの經過けいかに就いて、心から滿足まんぞくすると共に、今後益々ますます我が國家の責任の重大なことを感じないわけにはかない。